2018年の振り返りと2019年に向けて

明けましておめでとうございます。

今は、2019年1月1日12時25分。

今年は、子どもの受験もなく、追い詰められた原稿もなく、久しぶりにのんびりと大晦日とお正月を迎えています。大掃除とはとても言えませんが、散らかり放題だった家の整理整頓をし、年越しそばを食べて、紅白歌合戦を見ました。

石川さゆりに布袋寅泰のギターが加わった「天城越え」はすごかった。

BGMはMONKEY MAJIK 。幸せな歌詞と穏やかなメロディが今の気分にぴったりです。

2009年に、NPO法人キッズドアを設立し、昨年2018年は10年目ということで10周年記念のチャリティパーティを開催いたしました。おかげさまで、本当にたくさんの方にお越しいただき盛大な会となりました。

社会貢献者表彰という大変名誉ある賞もいただきました。

10月には、キッズドアの無料学習会の成果を教育格差の権威であるお茶の水女子大学の耳塚寛明先生の監修のもと調査し、その結果を発表させていただきました。

私個人としては、初の著書「子どもの貧困 〜未来へつなぐためにできること」(水曜社)を出版することができました。

 

一緒に働くスタッフも増え、たくさんのボランティアの方々とともに、子どもたちに向き合う現場の数も順調に増えています。

2018年も、キッズドアという団体としてみれば、本当にみんなで頑張ったとても充実した1年でした。

 

反面、少し目線を広げて、日本の子どもたちは幸せだったのかしら? と問いかけてみれば、その答えは明らかでしょう。

 

虐待、いじめ、自殺、不登校、貧困、不合理な校則、不公平な入試・・・・

 

南青山の児童相談所建設問題では、反対派の方々のあまりにもひどい差別的発言に、本当に深く考えさせられました。大人が自分の財産や見栄のために子どもを犠牲にするようなことを堂々という姿には、とても違和感を覚えました。一方、それに対して社会から批判の声が上がったことは救いでもありました。

 

 

2019年は、どんな年なのでしょう?

平成が終わり、新しい時代が始まります。

今の時代の幸せとは何なのでしょうか?

 

キッズドアの学習会に通う子どもたちの家庭環境は、決して裕福ではありません。一般的にみれば「かわいそうな子ども」かもしれません。しかし学習会の現場は決して「不幸せ」ではありません。現場に入って、一番エネルギーをもらうのは私です。

 

親でも学校の先生でもない私が、「ちゃんと勉強しなさいね。」とたくさんの子どもたちに声をかけて、

「あの子はお正月、ちゃんと家族と過ごせているかしら?」

「受験生はちゃんと勉強しているかしら?」

と、心配できる。

そういうことが、そういうことが本当の幸せなのかなぁ、と最近思います。

 

キッズドアの学習会に通って、今は高校生になり、学習支援ボランティアにきてくれているA君に、

「A君は政治家とか向いてると思う。大臣とか目指して欲しい。」

と何気なく言ったら

「渡辺さんは、僕が小学4年生の時から知ってるでしょ?それでそんなこと言いますぅ?」

と笑いながら答えてくれました。

もう何年も話していなかった彼が、「私といつ出会ったか」を覚えていてくれたことが、とても嬉しく心が暖かくなりました。私は、彼から幸せをもらいました。

 

子どものことを想って、大人がああだ、こうだと頑張る姿を見せれば、例えうまくいかなくても、きっとそれは、子どもの栄養になるのです。

 

今の日本では、ちょっと気を抜くと、一番弱い子どもに、すべての不合理のしわ寄せがいってしまいます。それを「仕方がない」と見過ごさない、諦めない。

子どもの幸せのために、全力で立ち向かう大人の姿を見せてあげましょう。

あなたの勇気が子どもたちに受け継がれ、時間がかかっても少しづつ社会が良くなる、こんな素晴らしいことはありません。

 

2019年も、たくさんの子どもたちと幸せを作っていけるよう、皆様と一緒に頑張ってまいる所存です。失敗や足踏みもあるかもしれませんが、どうか暖かく見守り、時には手を貸していただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。

 

*写真は東京都江戸川区からの空。快晴です!

 

 

クリスマス − 皆様の優しい心を子どもたちに

今日はクリスマスイブ、明日はクリスマスです。

私はこの時期になると思い出す子がいます。

 

母子生活支援施設という福祉施設をご存知でしょうか?今話題の南青山に立つ児童福祉の複合施設でも計画されているもので、様々な事情で自立が難しい母子家庭を一定期間入所させ、生活基盤を整える施設です。

 

キッズドアが活動を始めて間も無く、母子生活支援施設の職員の方から

「施設の子どもたちも勉強が苦手なので、ボランティアを派遣してくれないか?」

というご相談をいただき、学習支援を始めました。

 

ある年、「新しく子どもが増えたので参加させてもいいですか?」と言われて小学2年生のお兄ちゃんと年長さんの年頃の弟が、来てくれることになりました。

初参加の日は、12月だったので、

「せっかくだから勉強会ではなく、クリスマス会をやろう!」

ということになりました。

 

勉強会に参加する数名の子どもとボランティアやスタッフ、全員でも7〜8名のこじんまりとしたクリスマス会です。

 

町で売っているクリスマスケーキを買って、お菓子やジュースを買って、針金ハンガーでクリスマスリースを作って、歌を歌って・・

 

すると会の途中で、お兄ちゃんが、すっとパーティの輪を抜けて部屋の壁際によって行きました。気になったスタッフが近づいていくと

 

「これは現実かなぁ。」

 

とつぶやいていたそうです。

後で施設の方に聞くと、その親子はDVでずっと逃げ回るような生活だったそうです。

その子は8年間の人生で、みんなでケーキを囲んでお誕生日やクリスマスを祝ってもらったことがなかったのでしょう。生まれて初めての楽しい体験に思わず出た言葉が 「これって現実なのかな」 だったのです。

「日本にもこんな親子がいるんだ」と、私自身とてもショックを受けた経験でした。

 

あれから随分時間が経って、その家族も今は母子生活支援施設を出て、お兄ちゃんは高校に入学したそうです。

 

母子生活支援施設での学習支援や生活困窮家庭の学習支援や体験活動は、皆様のご寄付で運営しています。

 

クリスマスに、皆様の暖かい心を寄付として、子どもたちにプレゼントしていただけると大変嬉しいです。

 

キッズドアには様々な寄付の仕組みがございます。

 

*毎月一定額をご寄付いただくマンスリーサポーター
月額3,000円のサポーターで、ボランティアの交通費や生徒の教材代をまかなえます。
http://www.kidsdoor.net/supporter/

 

*少し余裕がある時にご寄付いただける都度寄付

http://www.kidsdoor.net/otona/kifu_sum.html

 

*寄附金控除が受けられる「共感助成制度」
公益財団法人信頼資本財団を経由してのご寄付です。

https://congrant.com/project/shinrai/440

 

*Tポイントで気軽に寄付できるyahoo!ネット募金

https://donation.yahoo.co.jp/detail/5159001/

 

*古本やDVD、ゲームによる寄付

https://shinrai.or.jp/user/media/shinrai_org/page/subsidy/arigatobon-pdf/kidsdoor.pdf

 

 

クリスマス−皆様の優しい心を子どもたちに

 

 

母子生活支援施設とは?
http://zenbokyou.jp/boshi/

 

個人が特定できないように一部編集しています。
写真はキッズドアの無料学習会の様子で母子生活支援施設とは関係ありません。

#クリスマス #サンタクロース #母子生活支援施設

児童虐待根絶に向けた、今すぐできる3つのアクション

今日は2018年12月10日、今年ももう終わります。
今年一番、皆様の心を痛めたのは、結愛ちゃんの虐待死事件ではないでしょうか?
虐待死の事件が起きると「とんでもない親だ」と加害者に対する怒りや、「行政は、児童相談所は何をやっていたんだ」という担当部局への批判が起こりますが、時にそれは虐待予防や虐待の発見には逆効果ですらあります。
児童虐待が起こる家庭は、例外なく「孤立」しています。子育てがうまくいかない、お金がない、仕事のトラブル、生活のトラブル、家族のトラブル、そんなことを相談できる人がいないので、家族という狭い世界で一番弱い子どもにしわ寄せが行くのです。「助けて」と声をあげて欲しいのに、世間のバッシングが燃え上がる様を見れば、「絶対に知られてはならない。」とますます隠してしまいます。

虐待を「ダメな親」の問題にしても、虐待死を防ぐことはできません。どうすれば虐待死は防げたのか?虐待予防のために何ができるのか?を考えて行く必要があります。

虐待を地域からなくすために、私は

1 意識を変える!子育ては地域全体で
2 笑顔の声かけ
3 「189」の活用

3つのアクションを提案します。

 

1 意識を変える!子育ては地域全体で

日本は「子どもを育てるのは親の責任」という国民意識がとても強い国です。そうは言っても、少し前は、子どもの数も多く、地域の中で相互に助け合いながら子育てをしていましたが、少子化が進む日本では、子どものいる家庭は少数派になり、子育て家庭は、地域社会の中で、いつも「怒られるのではないか」とビクビクしながら子育てをしています。

保育園や児童相談所を立てようとすると地域住民から反対運動が起こる、そんなそんなニュースを見て、若い人は子どもを産もうと思うでしょうか?子どもたちは、「自分は社会に歓迎された存在」と思うでしょうか?

電車の中でベビーカーを畳まないと「最近の若い母親は」と怒られるのです。
子どもを抱え、子どもを連れ歩くことでたくさんの荷物があるのに、さらにベビーカーを畳んで持つなどは不可能なことです。専業主婦で子どもを連れ歩く必要がなかったり、3世代同居でおばあちゃんに子どもを預けられた時代とは、事情が違うのです。
「ベビーカーで混んだ電車に乗るのが間違い」などという論調が、さも正しいというように流れてくると、本当に悲しくなります。みんな事情があって乗っているのです。欧米でもアジアでも、ベビーカーを見かけたら最優先で電車に乗せてくれます。みんな席を譲ってくれます。
「子育ては社会全体で!」という掛け声だけは以前からありますが、実態としては、ますます子どもを育てづらい社会になっています。

これ以上、虐待死を出さないためには、今こそ掛け声だけではなく、ほんとうに子育てを地域社会全体で行う、一人一人の地域住民が子育ての主体者であるという実感を持つことから始めましょう。
子育ての課題は「社会の課題」です。家庭力(生きる力)に格差があるのは当たり前のこと。それを社会や地域で支援していこう、という発想に変えることが、すべての子どもを救うことに繋がります。
虐待を受けることで、子ども自身が失う利益や医療費、生活保護費用の増大などの社会的コストは推計で年額1兆6000億円にのぼると言われています。皆さんの意識を変えて行けば、子どもも幸せになり、社会的コストも削減できるのです。

2 笑顔の声かけ

子どもは一人では生きられません。弱者です。そして、弱さを持つ者を育てるということは、親自身が弱い立場になるということです。

私自身の経験でも、子どもが小さいときは子どもを連れて外に出るときにとても緊張しました。
「子どもが泣いて周りに迷惑をかけるのではないか?」
「子育てのことで何か注意をされるのではないか?」
と、常にビクビクしていました。
実際、子どもが駄々をこねている時に、全く知らない高齢者の男性から
「ちゃんと育ててないからだ。子どもが可哀想だと。」
と責められたこともありました。
幼稚園のお迎えで、「帰りたくない。友達と遊びたい。」とお兄ちゃんは駄々をこねているのですが、私の背中には、39度の熱を出してぐったりしている、それでも家において置くわけにはいかず連れ歩いている弟がいるのです。途方にくれているのに、何の事情も知らない方からなぜ怒られなければいけないのか? あの時の悲しさは20年経った今でも忘れられません。

電車の中で、赤ちゃんが泣いていると
「うるさいぞ。」「黙らせろ。」と声をあげたり、舌打ちをする大人がいます。
とんでもないことです。
泣いている赤ちゃんを泣き止ませる方法などありません。泣いている赤ちゃんに対して暴言を吐く大人こそがマナー違反であり、社会的常識に欠けた社会生活不適格者だと私は思います。泣いている赤ちゃんに我慢ができないのなら、そういう人は、街中に出ないで欲しい、とさえ思います。

私自身の体験でも、逆に優しい声をかけてもらったときは、どれほど嬉しかったでしょう。笑顔や親身になってくれた一言がどれだけ支えになることか。近所だけでなく、電車やバスの中でも、優しいまなざしで見守っていきましょう。

私はイギリスで1年間だけ生活していました。海外旅行も好きなので、子どもが小さいうちは、よく家族で海外に行きました。ヨーロッパもアメリカもアジアも、子どもを連れて歩いていると、幸福感で一杯になります。すれ違う全く知らない人が、子どもや私に微笑みかけてくれるからです。
「かわいいわね。」と声をかけてくれるからです。それだけのことですが、本当に幸せを感じるのです。我が子がますます可愛くなるのです。

今の日本で、子どもを育てているママやパパは幸福感を感じられるでしょうか?

子どもを見かけたら、笑顔になる。微笑みかける。
それだけで救われる親子がたくさんいます。そういう子どもに暖かい地域が作れれば、
「ダメな親と怒られる」とますますうちにこもって虐待してしまうことも無くなるのではないでしょうか?

3 「189」の活用

「189」は全校共通の児童相談所への虐待通報ダイヤルです。虐待を目撃した場合だけでなく、何かおかしいなと思った時点で電話をしましょう。匿名で行うことができるので、近隣との関係を意識しすぎる必要はありません。
現在、虐待を発見した際の通告は、国民の義務となっています。

結愛ちゃんの後も、虐待死は続いています。政府も最優先で対策を進めていますが、私たち一人一人が、周りの子どもに目を配り、笑顔を向ける、今すぐできることを始めて行きましょう。

2019年には虐待で無くなる子どもが一人もいなくなるように。
一人一人が意識して、子育てしやすい社会を作って行きましょう。

 

#児童虐待

ブラック校則をなくそう!ー下着の色指定が理不尽というエビデンス

ブラック校則をなくそう!プロジェクト
が発端となり、校則や子どもの過ごしやすさについて、社会全体から様々な情報発信が出されているのはとても嬉しいです。

こちらは、下着屋さんが投稿したTweetを、バズフィードさんが記事にされたものです。

「白の下着は透けない」って本当? 下着屋さんが言わずにはいられなかったこと

校則で下着の色が指定されていることに驚いた方も多いと思いますが、校則で下着の色を指定する理由として多く挙げられているのが
「下着の色が透けるのを防ぐため」です。

今回、下着のプロである下着屋さんが、実は白の下着は赤や紺より透けてしまうということを、わかりやすく示してくださっています。

方法はごくシンプルなもの。肌の色に近い背景の上に、白、ピンク、水色、ベージュ、赤、紺の布地を並べ、その上から制服のブラウスをイメージした白い布を重ねました。

画像を見ると、白やピンク、水色など、肌よりも薄く淡い色の方が、背景からはっきりと浮き上がり、透けて見えやすいことがわかります。

この実証実験をやらずにはいられなかった、下着屋さんの気持ちがインタビューされているので、ぜひお読みください。

実は、ブラック校則をなくそう!プロジェクト が発足するきっかけとなった、
「黒染め」に関しても、プロジェクト開始直後に美容院関係者から
「黒く染めるのは、髪染めの中でも一番肌へのダメージが大きいので、子どもには絶対にやってはいけない!」
というご連絡をいただき、関係者に共有しました。

大阪府でいち早く校則の点検見直しが行われ

「茶髪の禁止」が「染色・脱色の禁止」に改定された背景にも、このような健康被害に対する専門家からの意見などもあるかもしれません。

今まで「学校に任せておけば大丈夫」と何でもかんでも学校にお願いし、お任せしてしまった結果、今学校が大変な状況になっています。

ブラック校則の問題も、学校を批判するのではなく、社会全体の問題として、今回の下着屋さんや美容関係者のようにそれぞれのプロが、子どもの健全な成長に知見を共有するような流れが、もっともっと広がると良いと思います。

子どもは社会の宝。親や学校だけで育てるのではなく、社会全体で育てていきましょう。

「ブラック校則」についての本ができました!

ブラック校則をなくそう!プロジェクトの調査をきっかけに本が出ました。

荻上チキさん・内田良さんの主筆に加え、私も「第5章 校則が及ぼす経済的な負担 」を書いています。

よろしければ是非お読みください。

ブラック校則 理不尽な苦しみの現実

児童虐待防止署名キャンペーンへの内容改変に関する公開質問への回答

 

 

キャンペーン 「もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!」について、公開質問をいただきましたので、ここに回答します。

質問の内容はこちらです。

*公開質問1 回答する必要はないと判断して回答しておりません。

*公開質問2 こちらに関して回答させていただきます。

 

以下回答です。

 

一般社団法人 office ドーナツトーク代表 田中俊英 様
東京都⺠ 土谷和之様 へ

 

キャンペーン 「もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!」 の内容改変に関する公開ご質問に対して、以下のように回答いたします。

 

質問1)共同発起人として、今回の事態をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。

船戸結愛ちゃんのような子どもを今後一人も出さないように、虐待に苦しむ子どもがいなくなるようにと、105813人の市民が立ち上がり、迅速な署名を通して世論を形成し、国を動かして虐待予防の施策を作り上げることができました。本来ならば、「虐待をどうすれば防げるのか?」その点に関しての議論をさらに進めるべきと感じております。
署名サイトの文言の改変等に関してご批判をいただいておりますが、これは、発起人、共同発起人、署名をした10万人以上の勇気ある市民が各自判断するべき問題であると考えます。その中で発起人、共同発起人の方の中にはそれぞれのお考えを述べていらっしゃる方もいます。また署名をされた方で、何かご意見がある際には、駒崎氏が直接意見を受け付けています。直接抗議するなり、相談するなり、または、SNS等でご意見をあげていだくこともできますし、そのような方々に対して、私たち発起人は真摯に向き合う必要があると思います。が、署名活動に参加されていない方からのこのような動きは、「いかに虐待を防止するか」という本来の主旨から大きく外れたものであり、個人的には非常に残念に思います。

 

 

質問2)今後、署名者及び署名を届けた東京都、厚生労働省に対して、発起人、共同発起人はどのような対応を取るべきとお考えでしょうか。

もし、署名を取り下げたいという方がいらっしゃった場合には、東京都や厚生労働省に署名取り下げの依頼をかけるという事務的な手続きになるかな?と思います。署名を取り下げたい方がいらっしゃるのか、どうか?は残念ながら私は存じ上げません。

私個人としては、署名を取り下げるつもりはありません。

 

 

質問3) 当初の「児童虐待八策」の文面について、「児相の虐待情報を警察と全件共有すること」 を求めたものと解釈されていましたでしょうか。もし、そのように解釈していなかった場合、その理由もご教示ください。

 

「児相の虐待情報を警察と全件共有すること」とは解釈していません。その理由もとありますが、

改変前の文章

(2)通告窓口一本化、児相の虐待情報を警察と全件共有をすること、警察に虐待専門部署(日本版CAT)を設置することを含め、適切な連携を検討する会議を創ってください」

を、普通に読めば、

通告窓口一本化、全件共有すること、虐待専門部署を設置することなどを検討する会議を創ること

を求めている文章だと解釈しています。

全件共有は、通告窓口一本化、虐待専門部署の設置と共に例示されたものの一つであり、決して全件共有を求める策ではないと解釈していました。ご質問文からは、「あたかも普通に読めば全件共有することを求めた文章である」というニュアンスが感じられますが、少なくとも私は、「検討する会議を創ること」を求めた文章だと読み取りました。そこに特段の理由はありません。

全件共有に様々な意見があることは承知していたので、全件共有を求めるものであれば、発起人になる前に駒崎氏に意見や疑念を伝えていました。この点は、私なりに、時間がない中でも八策を咀嚼し、その上で発起人になりました。私は「まずは会議を創ること」が必要だと思いますし、もし、そのような会議ができれば、ぜひ参加したいと思っていました。

ですので、ご指摘いただいた、 「警察への全件共有」に触れない形に改変  についても、「適切な連携を検討する会議を創る」という策の主旨を大きく変えるものではないと考えています。

私個人としては、本来の文章を変更する必要はなかったと思いますし、駒崎氏の気遣いが裏目に出てしまう結果になり、発起人、共同発起人の方々にも不安を覚える方がいらっしゃるような事態を招いたことは反省するべき点だと思います。が、殊更に騒ぎたてるような種類のものでもないと感じています。

 

以上がご質問いただいた内容に関する回答です。

 

以下、今回の事態に関しての私の考えです。

 

1)全件共有に関して

色々な意見がありますが、私は児相の虐待情報を警察と全件共有をすることに関しては、ぜひ前向きに検討するべきだと思います。

全件共有に対する様々なリスクがあることも承知していますが、全件共有することで、一人でも二人でも救える命があるのなら、一度真剣に検討してみる価値は十分にあると思います。

勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、「虐待情報の警察との全件共有」と、「虐待事案への警察の全件介入」は全くの別物です。全件介入に関しては、私ももちろん反対です。

厚生労働省の「虐待対応担当窓口の運営状況調査結果の概要」によると、虐待対応担当窓口職員の25%は非常勤職員です。

*表4 虐待対応担当窓口職員の正規・非正規別業務経験年数

以前、児相に勤めたことのある非常勤職員の方のお話を伺ったことがありますが、保護した子どもの父親に恫喝されるようなことが度々あったそうです。私は、「非正規の方がそんなことまでさせられるのか?」ととても驚きました。子どものためとはいえ、私ならやり続ける自信はありません。非正規の職員が、体を張って、自分の身を危険にさらして虐待を防ぎ続けるシステムは限界にきているのではないでしょうか?

今年の夏も暑いです。日本では、毎年、子どもが車内に置き去りにされ、その結果死んでいます。海外では、子どもを車に残して行けば、通報され逮捕されます。私が1年間住んでいたイギリスでもそうでした。「よく眠っているから」「ちょっとだけだから」という例外はありません。どんなに大変でも面倒でも、子どもを車内に置き去りにしません。日本では、毎年子どもが置き去りにされて死んでいるのに、今だに置き去りは通報になりません。

先日もパチンコ店の駐車場で、店員が置き去りにされた子どもを発見し、窓を割って助けようかどうしようかと迷っていたところに、保護者が帰ってきて、注意をしたら逆ギレされたというような事件がありました。

今のままでいいのでしょうか?

私は、もっともっと子どもの命を守るために必死になりたいです。全件共有で、全ての虐待は救えないかもしれません、リスクもあるかもしれません。しかし、今のままではダメなのです。
どうすれば子どもの命を守れるのか、それについて議論をもっと進めていきたいです。

 

2)署名とはなんなのでしょう?

ご質問文の中に「ソーシャルセクター・NPOの関係者等の間で問題視されています」とありますが、それは具体的にどなたなのでしょうか?

ご質問文からは、あたかも今回の署名活動が、嘘にまみれた署名者を騙したようなニュアンスが感じられます。

署名活動をした105183人の市民は、騙された愚かな方々なのでしょうか?

私は違うと思います。結愛ちゃんのような悲劇をもう二度と出さないと強く心に誓った、素晴らしい行動力を持った方々だと思います。そして彼ら彼女らの力が、今まさにとてつもないスピードで児童虐待を防止しようと国を動かしているのです。私は、NPO法人キッズドアの理事長という立場ではありますが、自分が「ソーシャルセクター・NPOの関係者」というような特別な存在だとは思っていません。ただ、子どもの命を守りたい、虐待をなくしたいという一人の人間です。

105183人の方々にそれぞれの想いがあり、それぞれの意思があり、それが一人一人の署名となっているのです。皆、虐待をなくしたいという想いであふれています。

できるなら、熱い議論は、「いかに虐待をなくすか」について語りたいですし、発起人、共同発起人となられたような方々は、このような質問状への回答に時間を使うのではなく(私はすでに8時間以上をこの質問に使っています)、もっと違う部分に力を使うことで、一人でも二人でも救える命があるかもしれないと思うと、本当に残念です。

結愛ちゃんの事件の後も、高校の校庭で赤ちゃんの遺体が見つかり、小学3年生の男の子が胃袋破裂でなくなっていますが、虐待の疑いで両親が逮捕されています。今日(8月3日)も長崎で車に置き去りにされた1歳の女の子が亡くなっています。

 

これ以上、子どもが虐待で亡くなるのを防ぎたい!

 

私たち10万人以上の市民が署名活動を通して実現したいのは、「市活動の基幹的ツールである署名活動の信頼性・正当性を担保すること」でも「今後のソーシャルセクタ ー・NPOの健全な発展」 でもありません。ただ、子どもの命を救いたいのです。

お二人がソーシャルセクターやNPOの健全な発展に力を注がれるのは、非常に立派なことですし、尊重します。

が、できましたらそれはこの問題以外のところでやっていただけないでしょうか?公開質問状というような手段はこれきりにしていただきたいと強く思います。

 

私の意見は以上です。

子どもたちの虐待を防止しようとしているはずの大人達が、ネット上でこの様なやりとりを拡散しているのは、子ども達に対して恥ずかしいですし、申し訳ない気持ちになります。

虐待を無くすために、子どもたちの命を守るためにどうするか、という本質的な議論に力を注ぐために、この問題に関する意見表明はこれを最後とさせていただきます。

これ以上、子どもの命が奪われないよう、虐待防止策が1秒でも早く進むことを願っていますし、できることがあれば皆様と力を合わせて実現していきたいと思っています。

 

 

2018年8月3日

なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018 発起人

  NPO法人キッズドア 理事長 渡辺由美子

 

子どもの貧困 ~未来へつなぐためにできること

足掛け3年もかかってしまいましたが、ようやく5月25日に私が書いた初めてのが出ます。

NPO法人キッズドアを2009年に設立してから10年間近く、私は子どもの貧困の現場を見続けてきました。

「勉強が苦手だが塾に行くお金がなから、高校に行けない子どもがいるなら、無料で勉強を教えてあげればいいんだ!」

と軽い気持ちで踏み込んだ、「子どもの貧困」の実態は、私の想像をはるかに超えた、理不尽で深刻な状況でした。

なぜ、こんなになるまで放置されてきたのか!という驚きを隠せません。

日本人は優しい、思いやりのある国民だと言われていますが、現場にいると「なぜ、このような状況を放っておけるのか?」と、怒りが湧いてきます。

「スマホを持っているから貧困ではない。」というような古い観念にとらわれた貧困バッシングや、「お金がないのは怠けているからだ。」という自己責任論は、「子どもの貧困」という社会課題の解決を妨げる最大の要因です。

実態をよく知らないままに投げかけられる言葉が、どれほど子どもたちやその親を傷つけているでしょう。

「日本の子どもの貧困」を解決する一番の早道は、今起こっている子どもの貧困の実態を一人でも多くの方々が理解することです。どなたにでも読んでいただけるように、できるだけわかりやすい言葉を選び、心を込めて書きました。

 私が出会った子どもたちも親も、皆大変な状況で頑張っています。みんなで子どもたちを応援するために、まずは手にとってお読みいただければ幸いです。

すべてのこどもたちが夢や希望をもって生きられる社会を目指して、これからも皆様と力を合わせていければと思っております。

 

<内容紹介>

きちんとした身なり、おしゃれな子もいる、清潔感もある。スマホも持っている。
でもお昼代は100 円、そして1,000 円の参考書が買えない。
ひと目ではわからない「子どもの貧困」はなぜ起きているのか…。

現在、日本の子どものおよそ7人に1人が貧困の状況と言われている。厚生労働省発表「子どもの貧困率」は2009 年の14.2%から2014 年には16.3%に上昇、そして多くのメディアが「子どもの貧困」を取り上げ、政府も緊急の課題として検討を進めている。

一見それとはわからない子どもの貧困。「自己責任論」などの安易な批判や「かわいそうな子どもたち」という福祉的観点で捉えるむきもある。しかしそれは近い将来、日本経済の破綻を招きかねない重大な問題であり最優先で取り組む課題である。

本書は子どもの貧困問題を生活保護など増大する福祉コストや高止まりする非婚率、少子高齢化等の社会問題と関連づけて考察し、また「子ども食堂」や「フードバンク事業」そして「無料教育支援」などの取り組みを紹介する。政府や自治体、企業、NPO、市民それぞれが問題解決のため何ができるのかを考える

【目次】
はじめに

第1章 「大学生って本当にいるんだ」
見えづらい日本の子どもの貧困
お昼代の予算は100円
お金かかるならいかない
眼鏡なんか買えない
大学生って本当にいるんだ
この子が今ここにいる事が奇跡みたいなもんだから
これって現実かな
今日、私、お誕生日なんだよ
今、白血病で入院しているんです
風邪で亡くなった母の気持ち
震災で家財を失い
兄弟が多くてすいません
お金がないならしょうがないのでしょうか?
お金がかかれば部活はできない
あなたのすぐそばに困っている子どもたちはいる

第2章 教育格差の実態
なぜこんなに成績が悪いのか
家に勉強する場所がない
すべての親が勉強を教えられるわけではない
夏休みなんて
多様化が進む家庭や親
お金がなくても本人が頑張ればどうにかなるのか?
15歳で将来をあきらめる子どもたち
教育格差が起こる原因
貧困の連鎖
本人の努力では格差は埋まらない
勉強の仕方そのものを知らない
暗記の仕方がわからない
情報やノウハウの欠落による誤った自己認識
高度化する情報社会を生きる子どもたち
プログラミング教育の可能性
貧困の連鎖を断ち切るために

第3章 現場で起きている奇跡
学校の先生、ダメじゃん
寄り添って教えてくれる誰か
「勉強を教える」ことの本当の効果
深刻なコミュニケーション機会の不足
相手の言っていることを理解する
非認知能力を育てる
勉強嫌いのレッテルを貼らない
発達障害や不登校と子どもの貧困
ボランティアが発見したつまずきの原因
貧困と不登校やいじめ
現在のキッズドア

第4章 私たちが大事にしていること
私がキッズドアを始めたきっかけ
最高の魚の釣りかたを教えたい
お金のあるなしと、人間の優劣は関係ない
教育にこだわる。結果にコミットする。
学力を上げるむずかしさ
学習日以外の準備が大事
それでも子どもは親を待っている
他機関との連携
ボランティアによる指導へのこだわり
片親だから行き届かないのか
ボランティアする側に回る
大学生の成長
この子と自分の違いに気づく
社会人との交流
ホームレスの人と話をすること
会社でえらくなって欲しい

第5章 子どもの貧困対策は「福祉」ではなく「将来への投資」
動き始めた子どもの貧困対策
少子化と子どもの貧困
まったなしの子どもの貧困対策
子どもの貧困対策は「福祉」ではなく「将来への投資」である。
国をあげて子育て支援の充実を
2050年、あなたは何歳ですか?
子ども・若者・子育て支援に資金を投入しよう
企業の積極的な参加を!
あなたも今すぐ行動をしてみませんか?
子どもの貧困の誤解は解けましたか?

著者について

千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経てフリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 配偶者の転勤に伴い、1 年間英国で生活、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験。2007 年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009 年内閣府の認証を受け特定非営利活動法人キッズドアを設立。同法人理事長。日本のすべての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、第9 期東京都生涯学習審議会委員、専修大学非常勤講師。「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」設立世話人・副代表幹事

子どもの貧困-未来へつなぐためにできること

こどもの日に「道徳教科化」について考えよう!

2018年5月4日の日経新聞「春秋コーナー」には、話題の道徳の教科書の話が載っています。

 

「監督の指示はバントだけれど、今は打てそうな気がするんだ。どうしよう・・・・」。星野君は思い切りバットを振る。二塁打だ。この一打がチームを勝利に導き、市大会への出場が決まった。今春から小学校で正式な教科になった道徳の教科書にこんな話が乗っている。
「チームの約束を破り輪を乱した者を、そのままにしておくわけにはいかない」。星野君は監督に糾弾され、大会への出場を禁止される。
教師用の指導書には、「集団生活における規律やそれを守ろうとする姿勢の大切さ、本当の自由の意味を考えさせたい」。星野君の行動は全否定されるべきなのか。賛否は割れそうだ。

 

海外の教育関係者の間で、もはやジョークになっているそうです。

賛否は割れそうとありますが、私のまわりで、これに賛成している人を見たことがありません。

道徳が教科化され、この星野くんの行動を糾弾しないと良い内申点がもらえない

という学校教育は、大いに問題を含んでいるとおもいます。

大川小学校の悲劇は、まさにこの問題が悪い方に出て、「裏山に逃げたい」と思った生徒はたくさんいたでしょうに、先生の指示に従った結果ではないでしょうか?私たちは、大川小学校から本当に何か学んでいるのでしょうか?

産業界では自分で考え、判断する人材が求められています。指示に従うことしかできない人材は、AIやロボットに変わられます。

 

学校という場が持つ力はとても大きい。だからこそ学校で何が起こっているのか?学校でどんな教育が行われているのか?は、学校関係者のみではなく、もっと多くの人々が関心を持つ必要があるのではないかと思います。

生活保護家庭に生まれた子どもの 貧困の連鎖を断ち切るために

生活保護家庭の大学や専門学校への進学の困難について考えて見ていただけないでしょうか?

生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案が閣議決定しました。今後国会審議に入ります。

今回、子どもの貧困の連鎖を断ち切るため、生活保護世帯の子どもが大学や専門学校に進む場合、新生活準備のために10〜30万円を支給する「大学等進学時の一時金の創設」が盛り込まれています。新年度から導入するためには、速やかな成立が必要です。ぜひ、今年の4月には、生活保護世帯から大学や専門学校に進学する子どもが少しだけでも楽になるように、いち早くこの法案を通過させて欲しいと願っています。

 

子どもは親を選んで生まれることはできません。生活保護家庭に生まれるか、そうでない家庭に生まれるかは、本人の努力ではどうにもなりません。

どんな家庭に生まれても、平等なチャンスがあり、それを掴むかどうかは本人の頑張り次第なら良いのですが、残念ながら今の日本はそうなってはいません。

 

高校卒業後、大学や専門学校に進学する率は、全世帯では73.2%。

生活保護世帯のでは33.1%です。

 

少し前まで、生活保護世帯の子どもは、高校を卒業すると「稼働に資する」と言われて、働く選択肢しかありませんでした。税金で生活をしているのだから、高校を出たら働けるのだから、働いて生活保護から抜けるのが当然という考え方です。たまたま生活保護の家庭に生まれたばかりに、18歳で家族のために働くしかなかったのです。

 

しかし、高校卒業後に、大学や専門学校に進学することが当たり前になってきたので、「世帯分離」という仕組みを作り、生活保護世帯の子どもでも高校を卒業したら、「強制的に働かなければならない」ということは、なくなりました。

もっと勉強したい、専門的なことを学んでから就職したいという、子どもの願いを叶える道筋ができたのです。

 

誤解されている方が多いのですが、世帯分離という制度は、生活保護家庭の子どもが高校卒業後、「家族のために強制的に働かなければならない」というまるで奴隷のような、家族のために犠牲になる人生を歩まなくてもいい、というだけの制度です。

 

高校卒業後の本人の生活費や学費が、生活保護費から出ることはありません。

生活保護世帯の子どもは、高校卒業後に進学をすると、生活費と学費は全て自分で賄っています。おそらく、貸与型奨学金や教育ローンを目一杯借り、足りないところはアルバイトで自活をしながら学んでいるのです。

貧困の連鎖から抜け出すために、18歳で卒業時の多額の借金と過酷な生活を背負って進学をしているのです。

 

健気ではないですか。

こんな苦労をして学んでいるのに、時にあらぬ誤解から「生保家庭の子どもに税金を投じて大学行かせるなんてとんでもない。」などというバッシングが起こることは、本当に悲しくなります。

もしかしたら、あなたが生活保護家庭に生まれていたかもしれないのです。彼ら彼女らに非は一切ないのに、過酷な人生を引き受けて学んでいるのです。

どうか、応援してあげてください。

 

 

もうひとつ、生活保護世帯の子どもが大学等に進学する際に大きな障壁があります。

4月の時点で、「所持金が0円」なのです。

今回の法改正であげられた「大学進学時の一時金の創設」は、まさにこの壁を乗り越えるためのものです。

 

これも誤解がありますが、生活保護家庭の高校生は、進学に備えての貯金ができません。アルバイトをして高校生活に必要な修学旅行や部活動の費用など当てることはできますが、バイト代を貯金して、新生活に備えることはできません。頑張ってたくさんアルバイトをしても、新生活のために貯めることは許されず、その費用は国に変換しなければなりません。貯金ができないのです。

 

世帯分離をして大学や専門学校に入り、アルバイトで生活費を稼いでも、給料が出るまでに1〜2カ月かかります。その生活費がないのです。大学や専門学校に入れば教科書代や教材費がすぐに必要になりますが、そのお金がないのです。

 

実は、高校卒業後に就職するこどもには、「初任給が出るまでの当座の生活費」ということで、一時金が出ます。よく考えれば当たり前のことで、家賃も食費も必要です。お金がなければ生活できません。

大学や専門学校に進学した子どもも、「最初のアルバイト代が出るまでの生活費」は必要です。

 

地方の生活保護家庭から東京の大学に進学した学生さんに、何が大変だったかと聞いたことがありますが、「4月がとにかく大変だった。」と言っていました。

教科書代、パソコンや新生活のための最低限の家電、学校に通うための最低限の洋服など、必要なものを買うお金がありません。もちろん、新歓コンパなど全くいけません。

 

たまたま、生活保護家庭に生まれたために、大学や専門学校に行くためにそんな苦労をしなければいけないのは、おかしくはないでしょうか?

その苦労を少しだけ軽減するための「大学進学時の一時金の創設」なのです。

 

そして、これは、4月に支給されなければ意味がありません。今年の4月に生活保護家庭から大学進学する2万3千人(H28年度)の生徒が、スムーズに新生活をスタートさせるために、ぜひ早急な成立を望んでいます。

 

生活保護受給家庭に対して、様々なバッシングがよく起こる日本ですが、それは正しい情報なのか、そこに誤解はないのか? 特に子どもや若者に関わることは、ぜひ今一度考えて見ていただけると幸いです。生活保護を受給している子育て家庭には、必ず如何ともしがたい理由があります。そして、子どもたちは、たまたま生活保護を受給する家庭 に生まれただけなのです。

 

<参考>第196回国会(常会)提出法律案

生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案

 

生活保護家庭に生まれたら「高卒で就職」という貧困の連鎖を止める第一歩

私も委員として参加させていただいた  審議会の議論を経て、生活保護世帯からの大学等への進学をすこしでも後押しする方向になりました。

https://mainichi.jp/articles/20171212/k00/00m/040/056000c

現在、日本の全世帯の大学等進学率73.2% 、生活保護世帯は33.1% です*1

生活保護世帯の子どもが、高校卒業後、大学や専門学校に行くことは、皆さんが考えている以上に非常に大変です。

まず、少し前まで、生活保護家庭の子どもは、高校をでたら、就職しなければなりませんでした。

生まれる時に親を選ぶわけにはいかないのに、生活保護家庭だと「進学ができない」に自動的に将来が決まってしまっていたのです。

さすがにこれは今の時代に合わないというので、「世帯分離」という制度ができました。

これは、同じ家に住みながら、大学進学する子どもは、制度上生活保護から抜けることで「高校卒業しても大学や専門学校に進学してもいい」という制度です。

誤解が多いのですが、

「生活保護を受けながら大学に行く」のではなりません。

本人が「生活保護を抜けて」自活をしながら大学に通うのです。

もちろん、学費も生活費も全額自分で払います。

生活保護の受給している親からは、もちろん学費や生活費の援助は一切ありません。

基本的には、ものすごく勉強をして学費免除などを取るか、貸与型奨学金を目一杯借りて学費を払い

さらに自分の生活費は、アルバイトなどでまかないます。

例えば、東京に住んでいる生活保護家庭の子どもが、家から通える大学や専門学校に通う場合には、

家を出て、新たに下宿などをするよりも、同じ家に住んで大学に通った方が生活が安定します。

これは、大学に通う子どもにメリットがあるのではなく

他の家族が安定するという点が非常に大きいと思います。

皆さんは子育て家庭で生活保護を受けているご家族とはどのようなおうちだと思いますか?

実はごく少数である不正受給のバッシング報道などのイメージがあるかもしれませんが、

私たちが知るご家庭は、母子家庭でお母様が働きすぎて体を壊していて働けない状態 だったり、障害のあるお子さんや介護が必要な親御さんなどを抱えどうしても十分に働けない子育て家庭など、家庭自体が、非常に不安定で皆でなんとか助け合って生活をしています。

大学や専門学校に進学するような優秀な子どもは、その家庭を実は「支えている」、家族から「頼りにされている」のです。

だからこそ、そのような子は、同じ家に残りながら家族を支えながら、大学や専門学校で学ぶのは合理的だと思います。

しかし、現在の「世帯分離」という制度では、その子一人は、世帯から抜けるということで、

その1人分の生活保護費(生活扶助と住宅扶助)が、ごっそりと減ってしまいます。

同じ家族が同じ家で、同じ生活をし、さらに一人の子どもは、大学や専門学校に通って学費や生活費がたくさんかかるのに、

収入が大きく減るという状況です。

私たちの学習会に通う子どもたちを見ていても、この制度を知って

「自分が苦労するのは構わないけど、家族に苦労をかけてまで大学には行けない。」

「やはり生活保護家庭の子どもが大学に行くのは、わがままなんですね。家族にしわ寄せがいく。」

と進学を諦めます。

こんな制度はおかしいと、私たちは「世帯分離」の制度の撤廃を求めていました。

今回、制度の撤廃までは至りませんでしたが、

住宅扶助の減額をなくし、さらに大学や専門学校に通う際に、進学準備のお金が一時金として支払われることになりました。

これに対しても、「税金を渡すなんておかしい。」という声も上がっているようですが、大きな誤解です。

生活保護を受けている家庭では、子どもは高校生の時に、大学や専門学校の生活に必要なお金を、アルバイトなどで貯金することはできません。

もし、それが見つかれば、「不正受給」とみなされ、稼いだお金を国に変換します。

生活保護を受ける家庭では、将来のために「貯金」をすることができないのです。

手持ち資金0円で、大学や専門学校に通えますか?

不可能ですよね?

家を出て、アパートを借りたり、最低限の家電品を揃えるにもお金がかかります。

そもそもアルバイトをしても、日払いのバイト出ない限り、お金がもらえるのは1ヶ月先です。

この1ヶ月、手持ちのお金がなければ、飢え死にします。

だからこそ、一時金が必要なのです。

ちなみに、この一時金は、生活保護家庭の子どもが、高校卒業後就職する際にももらえます。

高校卒業後、就職しても、進学しても、生活保護から出た直後に当座のお金が必要なのは同じなのです。

子どもは、自分の親を選べません。もしかしたらあなただって、生活保護家庭に生まれていたのかもしれません。

もしか知ったら、今日、あなたが事故にあったり、事件に巻き込まれたり、会社でひどいいじめにあって働けなくなって生活保護を受けなければならなくなるかもしれません。

その時、あなたは、自分の子どもに「高校を出たら働いてくれ。」と言えますか?

生活保護家庭に生まれた子どもも、将来の夢や希望を持って成長できるように

生活保護家庭の大学進学をバッシングせず、ぜひ応援してください。