児童虐待根絶に向けた、今すぐできる3つのアクション

今日は2018年12月10日、今年ももう終わります。
今年一番、皆様の心を痛めたのは、結愛ちゃんの虐待死事件ではないでしょうか?
虐待死の事件が起きると「とんでもない親だ」と加害者に対する怒りや、「行政は、児童相談所は何をやっていたんだ」という担当部局への批判が起こりますが、時にそれは虐待予防や虐待の発見には逆効果ですらあります。
児童虐待が起こる家庭は、例外なく「孤立」しています。子育てがうまくいかない、お金がない、仕事のトラブル、生活のトラブル、家族のトラブル、そんなことを相談できる人がいないので、家族という狭い世界で一番弱い子どもにしわ寄せが行くのです。「助けて」と声をあげて欲しいのに、世間のバッシングが燃え上がる様を見れば、「絶対に知られてはならない。」とますます隠してしまいます。

虐待を「ダメな親」の問題にしても、虐待死を防ぐことはできません。どうすれば虐待死は防げたのか?虐待予防のために何ができるのか?を考えて行く必要があります。

虐待を地域からなくすために、私は

1 意識を変える!子育ては地域全体で
2 笑顔の声かけ
3 「189」の活用

3つのアクションを提案します。

 

1 意識を変える!子育ては地域全体で

日本は「子どもを育てるのは親の責任」という国民意識がとても強い国です。そうは言っても、少し前は、子どもの数も多く、地域の中で相互に助け合いながら子育てをしていましたが、少子化が進む日本では、子どものいる家庭は少数派になり、子育て家庭は、地域社会の中で、いつも「怒られるのではないか」とビクビクしながら子育てをしています。

保育園や児童相談所を立てようとすると地域住民から反対運動が起こる、そんなそんなニュースを見て、若い人は子どもを産もうと思うでしょうか?子どもたちは、「自分は社会に歓迎された存在」と思うでしょうか?

電車の中でベビーカーを畳まないと「最近の若い母親は」と怒られるのです。
子どもを抱え、子どもを連れ歩くことでたくさんの荷物があるのに、さらにベビーカーを畳んで持つなどは不可能なことです。専業主婦で子どもを連れ歩く必要がなかったり、3世代同居でおばあちゃんに子どもを預けられた時代とは、事情が違うのです。
「ベビーカーで混んだ電車に乗るのが間違い」などという論調が、さも正しいというように流れてくると、本当に悲しくなります。みんな事情があって乗っているのです。欧米でもアジアでも、ベビーカーを見かけたら最優先で電車に乗せてくれます。みんな席を譲ってくれます。
「子育ては社会全体で!」という掛け声だけは以前からありますが、実態としては、ますます子どもを育てづらい社会になっています。

これ以上、虐待死を出さないためには、今こそ掛け声だけではなく、ほんとうに子育てを地域社会全体で行う、一人一人の地域住民が子育ての主体者であるという実感を持つことから始めましょう。
子育ての課題は「社会の課題」です。家庭力(生きる力)に格差があるのは当たり前のこと。それを社会や地域で支援していこう、という発想に変えることが、すべての子どもを救うことに繋がります。
虐待を受けることで、子ども自身が失う利益や医療費、生活保護費用の増大などの社会的コストは推計で年額1兆6000億円にのぼると言われています。皆さんの意識を変えて行けば、子どもも幸せになり、社会的コストも削減できるのです。

2 笑顔の声かけ

子どもは一人では生きられません。弱者です。そして、弱さを持つ者を育てるということは、親自身が弱い立場になるということです。

私自身の経験でも、子どもが小さいときは子どもを連れて外に出るときにとても緊張しました。
「子どもが泣いて周りに迷惑をかけるのではないか?」
「子育てのことで何か注意をされるのではないか?」
と、常にビクビクしていました。
実際、子どもが駄々をこねている時に、全く知らない高齢者の男性から
「ちゃんと育ててないからだ。子どもが可哀想だと。」
と責められたこともありました。
幼稚園のお迎えで、「帰りたくない。友達と遊びたい。」とお兄ちゃんは駄々をこねているのですが、私の背中には、39度の熱を出してぐったりしている、それでも家において置くわけにはいかず連れ歩いている弟がいるのです。途方にくれているのに、何の事情も知らない方からなぜ怒られなければいけないのか? あの時の悲しさは20年経った今でも忘れられません。

電車の中で、赤ちゃんが泣いていると
「うるさいぞ。」「黙らせろ。」と声をあげたり、舌打ちをする大人がいます。
とんでもないことです。
泣いている赤ちゃんを泣き止ませる方法などありません。泣いている赤ちゃんに対して暴言を吐く大人こそがマナー違反であり、社会的常識に欠けた社会生活不適格者だと私は思います。泣いている赤ちゃんに我慢ができないのなら、そういう人は、街中に出ないで欲しい、とさえ思います。

私自身の体験でも、逆に優しい声をかけてもらったときは、どれほど嬉しかったでしょう。笑顔や親身になってくれた一言がどれだけ支えになることか。近所だけでなく、電車やバスの中でも、優しいまなざしで見守っていきましょう。

私はイギリスで1年間だけ生活していました。海外旅行も好きなので、子どもが小さいうちは、よく家族で海外に行きました。ヨーロッパもアメリカもアジアも、子どもを連れて歩いていると、幸福感で一杯になります。すれ違う全く知らない人が、子どもや私に微笑みかけてくれるからです。
「かわいいわね。」と声をかけてくれるからです。それだけのことですが、本当に幸せを感じるのです。我が子がますます可愛くなるのです。

今の日本で、子どもを育てているママやパパは幸福感を感じられるでしょうか?

子どもを見かけたら、笑顔になる。微笑みかける。
それだけで救われる親子がたくさんいます。そういう子どもに暖かい地域が作れれば、
「ダメな親と怒られる」とますますうちにこもって虐待してしまうことも無くなるのではないでしょうか?

3 「189」の活用

「189」は全校共通の児童相談所への虐待通報ダイヤルです。虐待を目撃した場合だけでなく、何かおかしいなと思った時点で電話をしましょう。匿名で行うことができるので、近隣との関係を意識しすぎる必要はありません。
現在、虐待を発見した際の通告は、国民の義務となっています。

結愛ちゃんの後も、虐待死は続いています。政府も最優先で対策を進めていますが、私たち一人一人が、周りの子どもに目を配り、笑顔を向ける、今すぐできることを始めて行きましょう。

2019年には虐待で無くなる子どもが一人もいなくなるように。
一人一人が意識して、子育てしやすい社会を作って行きましょう。

 

#児童虐待

児童虐待防止署名キャンペーンへの内容改変に関する公開質問への回答

 

 

キャンペーン 「もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!」について、公開質問をいただきましたので、ここに回答します。

質問の内容はこちらです。

*公開質問1 回答する必要はないと判断して回答しておりません。

*公開質問2 こちらに関して回答させていただきます。

 

以下回答です。

 

一般社団法人 office ドーナツトーク代表 田中俊英 様
東京都⺠ 土谷和之様 へ

 

キャンペーン 「もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!」 の内容改変に関する公開ご質問に対して、以下のように回答いたします。

 

質問1)共同発起人として、今回の事態をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。

船戸結愛ちゃんのような子どもを今後一人も出さないように、虐待に苦しむ子どもがいなくなるようにと、105813人の市民が立ち上がり、迅速な署名を通して世論を形成し、国を動かして虐待予防の施策を作り上げることができました。本来ならば、「虐待をどうすれば防げるのか?」その点に関しての議論をさらに進めるべきと感じております。
署名サイトの文言の改変等に関してご批判をいただいておりますが、これは、発起人、共同発起人、署名をした10万人以上の勇気ある市民が各自判断するべき問題であると考えます。その中で発起人、共同発起人の方の中にはそれぞれのお考えを述べていらっしゃる方もいます。また署名をされた方で、何かご意見がある際には、駒崎氏が直接意見を受け付けています。直接抗議するなり、相談するなり、または、SNS等でご意見をあげていだくこともできますし、そのような方々に対して、私たち発起人は真摯に向き合う必要があると思います。が、署名活動に参加されていない方からのこのような動きは、「いかに虐待を防止するか」という本来の主旨から大きく外れたものであり、個人的には非常に残念に思います。

 

 

質問2)今後、署名者及び署名を届けた東京都、厚生労働省に対して、発起人、共同発起人はどのような対応を取るべきとお考えでしょうか。

もし、署名を取り下げたいという方がいらっしゃった場合には、東京都や厚生労働省に署名取り下げの依頼をかけるという事務的な手続きになるかな?と思います。署名を取り下げたい方がいらっしゃるのか、どうか?は残念ながら私は存じ上げません。

私個人としては、署名を取り下げるつもりはありません。

 

 

質問3) 当初の「児童虐待八策」の文面について、「児相の虐待情報を警察と全件共有すること」 を求めたものと解釈されていましたでしょうか。もし、そのように解釈していなかった場合、その理由もご教示ください。

 

「児相の虐待情報を警察と全件共有すること」とは解釈していません。その理由もとありますが、

改変前の文章

(2)通告窓口一本化、児相の虐待情報を警察と全件共有をすること、警察に虐待専門部署(日本版CAT)を設置することを含め、適切な連携を検討する会議を創ってください」

を、普通に読めば、

通告窓口一本化、全件共有すること、虐待専門部署を設置することなどを検討する会議を創ること

を求めている文章だと解釈しています。

全件共有は、通告窓口一本化、虐待専門部署の設置と共に例示されたものの一つであり、決して全件共有を求める策ではないと解釈していました。ご質問文からは、「あたかも普通に読めば全件共有することを求めた文章である」というニュアンスが感じられますが、少なくとも私は、「検討する会議を創ること」を求めた文章だと読み取りました。そこに特段の理由はありません。

全件共有に様々な意見があることは承知していたので、全件共有を求めるものであれば、発起人になる前に駒崎氏に意見や疑念を伝えていました。この点は、私なりに、時間がない中でも八策を咀嚼し、その上で発起人になりました。私は「まずは会議を創ること」が必要だと思いますし、もし、そのような会議ができれば、ぜひ参加したいと思っていました。

ですので、ご指摘いただいた、 「警察への全件共有」に触れない形に改変  についても、「適切な連携を検討する会議を創る」という策の主旨を大きく変えるものではないと考えています。

私個人としては、本来の文章を変更する必要はなかったと思いますし、駒崎氏の気遣いが裏目に出てしまう結果になり、発起人、共同発起人の方々にも不安を覚える方がいらっしゃるような事態を招いたことは反省するべき点だと思います。が、殊更に騒ぎたてるような種類のものでもないと感じています。

 

以上がご質問いただいた内容に関する回答です。

 

以下、今回の事態に関しての私の考えです。

 

1)全件共有に関して

色々な意見がありますが、私は児相の虐待情報を警察と全件共有をすることに関しては、ぜひ前向きに検討するべきだと思います。

全件共有に対する様々なリスクがあることも承知していますが、全件共有することで、一人でも二人でも救える命があるのなら、一度真剣に検討してみる価値は十分にあると思います。

勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、「虐待情報の警察との全件共有」と、「虐待事案への警察の全件介入」は全くの別物です。全件介入に関しては、私ももちろん反対です。

厚生労働省の「虐待対応担当窓口の運営状況調査結果の概要」によると、虐待対応担当窓口職員の25%は非常勤職員です。

*表4 虐待対応担当窓口職員の正規・非正規別業務経験年数

以前、児相に勤めたことのある非常勤職員の方のお話を伺ったことがありますが、保護した子どもの父親に恫喝されるようなことが度々あったそうです。私は、「非正規の方がそんなことまでさせられるのか?」ととても驚きました。子どものためとはいえ、私ならやり続ける自信はありません。非正規の職員が、体を張って、自分の身を危険にさらして虐待を防ぎ続けるシステムは限界にきているのではないでしょうか?

今年の夏も暑いです。日本では、毎年、子どもが車内に置き去りにされ、その結果死んでいます。海外では、子どもを車に残して行けば、通報され逮捕されます。私が1年間住んでいたイギリスでもそうでした。「よく眠っているから」「ちょっとだけだから」という例外はありません。どんなに大変でも面倒でも、子どもを車内に置き去りにしません。日本では、毎年子どもが置き去りにされて死んでいるのに、今だに置き去りは通報になりません。

先日もパチンコ店の駐車場で、店員が置き去りにされた子どもを発見し、窓を割って助けようかどうしようかと迷っていたところに、保護者が帰ってきて、注意をしたら逆ギレされたというような事件がありました。

今のままでいいのでしょうか?

私は、もっともっと子どもの命を守るために必死になりたいです。全件共有で、全ての虐待は救えないかもしれません、リスクもあるかもしれません。しかし、今のままではダメなのです。
どうすれば子どもの命を守れるのか、それについて議論をもっと進めていきたいです。

 

2)署名とはなんなのでしょう?

ご質問文の中に「ソーシャルセクター・NPOの関係者等の間で問題視されています」とありますが、それは具体的にどなたなのでしょうか?

ご質問文からは、あたかも今回の署名活動が、嘘にまみれた署名者を騙したようなニュアンスが感じられます。

署名活動をした105183人の市民は、騙された愚かな方々なのでしょうか?

私は違うと思います。結愛ちゃんのような悲劇をもう二度と出さないと強く心に誓った、素晴らしい行動力を持った方々だと思います。そして彼ら彼女らの力が、今まさにとてつもないスピードで児童虐待を防止しようと国を動かしているのです。私は、NPO法人キッズドアの理事長という立場ではありますが、自分が「ソーシャルセクター・NPOの関係者」というような特別な存在だとは思っていません。ただ、子どもの命を守りたい、虐待をなくしたいという一人の人間です。

105183人の方々にそれぞれの想いがあり、それぞれの意思があり、それが一人一人の署名となっているのです。皆、虐待をなくしたいという想いであふれています。

できるなら、熱い議論は、「いかに虐待をなくすか」について語りたいですし、発起人、共同発起人となられたような方々は、このような質問状への回答に時間を使うのではなく(私はすでに8時間以上をこの質問に使っています)、もっと違う部分に力を使うことで、一人でも二人でも救える命があるかもしれないと思うと、本当に残念です。

結愛ちゃんの事件の後も、高校の校庭で赤ちゃんの遺体が見つかり、小学3年生の男の子が胃袋破裂でなくなっていますが、虐待の疑いで両親が逮捕されています。今日(8月3日)も長崎で車に置き去りにされた1歳の女の子が亡くなっています。

 

これ以上、子どもが虐待で亡くなるのを防ぎたい!

 

私たち10万人以上の市民が署名活動を通して実現したいのは、「市活動の基幹的ツールである署名活動の信頼性・正当性を担保すること」でも「今後のソーシャルセクタ ー・NPOの健全な発展」 でもありません。ただ、子どもの命を救いたいのです。

お二人がソーシャルセクターやNPOの健全な発展に力を注がれるのは、非常に立派なことですし、尊重します。

が、できましたらそれはこの問題以外のところでやっていただけないでしょうか?公開質問状というような手段はこれきりにしていただきたいと強く思います。

 

私の意見は以上です。

子どもたちの虐待を防止しようとしているはずの大人達が、ネット上でこの様なやりとりを拡散しているのは、子ども達に対して恥ずかしいですし、申し訳ない気持ちになります。

虐待を無くすために、子どもたちの命を守るためにどうするか、という本質的な議論に力を注ぐために、この問題に関する意見表明はこれを最後とさせていただきます。

これ以上、子どもの命が奪われないよう、虐待防止策が1秒でも早く進むことを願っていますし、できることがあれば皆様と力を合わせて実現していきたいと思っています。

 

 

2018年8月3日

なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018 発起人

  NPO法人キッズドア 理事長 渡辺由美子