感情論に走る前に大学教育がどれだけ日本経済に寄与するかを冷静に判断するべきだ —中国が教育に力を入れている理由

文責:渡辺由美子(2017/2/2)

2017 年 1 月 31 日、日本初の給付型奨学金の創設が決まった。支給額は月額2~4万円、対象は約2万人。

現在、貸与型奨学金を借りている大学生は 130 万人を超えるので、2万人という規模は寂しいばかりであるが、それでも、給付型奨学金ができたのは大変喜ばしいです。

1月の安倍総理の施政方針演説でも、「どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。そのためには、誰もが希望すれば、高校にも、専修学校にも、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。」と、述べていらっしゃいます。
私もその通りだと思います。

それに対して、1月26日の予算委員会で民進党代表代行の細野豪志議員が、生活保護家庭の子どもが大学進学をしやすいように、世帯分離をやめましょうと訴えてくださっています。 (この問題に関してはNPO法人フローレンスの駒崎さんの投稿に詳しいです。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1377766165630333&set=a.177482192325409.44163.100001908875239&type=3&theater

これに対しては、賛否両論があります。否の方は「そうは言っても、生活保護を受けずになんとか少ない収入でやりくりしている家庭もたくさんある。家庭の支援を一切受けられずに、たくさんアルバイトで頑張っている生徒も多い。そういう学生に比べて、生活保護家庭の学生に優遇しすぎではないか?」

というものです。貧困バッシングに他なりません。

みなさん、ちょっとメガネが曇っちゃっていますよ。

大学進学率を上げるということは、日本の経済成長率を上げることに直結するのです。

だから、世界各国、少子化が進んでも、教育予算を増やし、大学進学率をあげ、自国の子どもにできるだけ教育を与えているのです。

日本は優れた教育を施している国だという幻想をお持ちの方は多い。

しかし、それは大間違いです。
日本は教育後進国です。

これほど国として教育を軽んじている国はありません。

例えば、大学進学率の世界比較を見てください。

素晴らしい統計を美しいグラフィックで見せてくださるグローバルノートさんのサイトには驚くべき結果が出ています。

●世界の大学進学率国際比較統計・推移

http://www.globalnote.jp/post-1465.html

日本の大学・大学院・短期大学を含めた進学率は63.36% なんと42位です。

韓国は95.35%で2位。米国85.80%、ロシア78.65%

文部科学省の統計でもこんな感じです。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2013/04/17/1333 454_11.pdf

OECD平均62%。日本51%。 31カ国中下から10位。オーストラリア96%。

日本、やばい。

GDPで世界第2位となった中国が、今、教育にどれだけ投資しているか、みなさんご存知ですか?ちょっとこのレポートを見てください。

●諸外国における教育財政に関する状況調査(3) の
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/chousa/__icsFiles/afieldfile/2015/06/18/1358243_03_1.pdf

中国には、消費税のような教育付加価値税3%があります。地方でも教育に用途を絞った税金があります。それを全て教育につぎ込んでいます。

もうすごいです。

中国の大学事情について少し見て見ましょう。

●中国の大学院生の推移

●中国の大学数の伸び

極め付け。高等教育学生数の国際比較。

 

日本の皆さんは、どうも「率」にこだわる。大学進学率がどうのこうのとか。しかし、実際に必要なの「数」ですよ。

「何人、優秀な人材がいるのか」の勝負です。大学進学率では、今はまだ中国の方が低いですが、すでに高等教育を受けている人数では圧倒的に負けている。

この事実を皆さんは知っていますか? 日本は、国際的にみて、高等教育を受けている人材が、圧倒的に少ない。

だから、人口の少ない国ほど大学進学率は高い。韓国もオーストラリアも、ほぼ全員が高等教育を受けている。高校を出て働く子どもなんていないのです。みんな自国の子どもに良い教育を与えて、国を支えてもらおうとしている。

給付型奨学金を作ろうとか、大学学費無償化をというと、反対派の方が必ずいうのが「大学に入っても、アルバイトしたり、遊んだりで全然勉強していない。無駄だ。」つまり、大学教育は無駄だという理論です。その根拠はなんでしょう?もし、何かデータがあるのなら、見せて欲しい。

私が知っているのは、大学進学率をあげることが、その国の経済成長率に直結しているというデータばかりです。

再び文部科学省の先ほどの統計です。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2013/04/17/1333454_11.pdf

よく見てください、
日本だけが大学入学者が減少し、GDP の伸びが低い。大学進学率が高いオーストラリアや韓国、アメリカは経済成長率が高い。中国、桁違いの伸びです。

少し日本の状況を見て見ましょう。みなさん、大学進学率が上がることを、鬼のように嫌っていますが、その結果どうでしょう?

リーマンショックなどで大学生の非正規社員化などが、メディアに大きく取り上げられたので、「大学出ても正社員になれない」というイメージを持っている方も多いようですが、非正規社員になる率は、当然ですが、高卒で働く人の方が圧倒的に多いです。

■学歴別就業形態

<正社員比率>

大学院卒  87.7%
大学卒   79.6%
高校卒   57.1%
中学卒   37.5%

厚生労働省「平成 25 年若年者雇用実態調査」より

大学に行けば、8割は正社員になれますが、高卒だと6割も正社員になれません。それでは、これが生涯賃金にどれくらい大きな影響があるか?

大卒の正社員の生涯獲得賃金は退職金や年金を含むと3億1200万円。それに比べて高卒フリーターの生涯獲得賃金は5540万円。

(「みんなの教科書」高卒フリーターと大卒正社員の生涯賃金・平均年収・年金比較http://minnanokyoukasho.com/business-job-salary1)

例えば、10%大学進学率が上がると、生涯獲得賃金だけでも10兆円以上増えます。毎年10兆円給料が増えれば、消費も伸びるでしょう。さらに高等教育を受けた人数が増えて、そこから優秀な人が素晴らしいビジネスを始めるかもしれない。将来の日本にどれだけ貢献するでしょう?

小さな国ほど、高等教育に力を入れなければ、少ない子ども全員に素晴らしい教育を国が与えなければ、その国の成長はないんですよ。

生活保護家庭の子どもが大学に行くのがずるいとか、低所得の子どもに給付型奨学金が無駄とか、そういう「他人が得をすることが許せない」というケチな根性が、自分の首を絞めているということに、どうして気がつかないのでしょう?

生活保護を受けながら、厳しい生活の中で大学進学を目指そうという子が、一体どれだけの努力をしているか?みなさんはそこに目を向けたことがあるのですか?

再び、駒崎さんのこの投稿をみてください。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1411604885579794&set=a.177482192325409.44 163.100001908875239&type=3&theater

私たちの教える子どもの中にも、本当に頑張って、生活保護家庭から大学に行こうとしてる子がいます。

でも、それは、本当にごくごく一部。

特別な努力をしなければ、大学に行く学力はつかないし、大学に行く気力もモチベーションも起こらない。私は、今、話題になっている生活保護家庭の大学進学の世帯分離をしても、劇的に大学進学率が急上昇するとは思えません。それでも、それだからこそ、厳しい環境で頑張る子どもや親を、さらに苦しめるような世帯分離はやめるべきだと思います。

生活保護を受けていない、もっと苦しいご家庭があるのも知っています。そのご家庭の子ども達にも、もっともっと大学進学の応援をするべきです。給付型奨学金の額も規模も大きくするべきですし、大学学費無償化も行うべきです。

それは、その子どもや親の得になるのではありません。税金を払っているあなたが「損」をするのでもありません。

当たり前のことですが、日本以外の全ての国がその原理に従ってやっていることですが、優秀な人材がその国の成長を支えるのであり、優秀な人材を育てるのには教育が重要なのです。そして、教育は全ての国民が受けられるように、国が担うものなのです。

大学進学率を上げることに、反対の方のご意見をぜひお聞きしたいです。

「感情論に走る前に大学教育がどれだけ日本経済に寄与するかを冷静に判断するべきだ —中国が教育に力を入れている理由」への1件のフィードバック

  1. 海外の友人に日本の奨学金の話をすると必ず「それは奨学金じゃない。単なるローンだ」と言われます。

    元々は、高額な授業料が必要な私立大学には進学できなくても国公立には進学できるように授業料を抑えて、その分国からも予算配分があったはずでした。
    昭和50年ころは月額6000円程で大学に通えたという資料を目にしたことがあります。
    当時の大学生がバイトで無理なく支払える額です。

    私立大学への国からの補助金を減らす事態になった時に、私立大学の学費と国公立大学の学費の差が広がらないようにという理屈で授業料が上がり始め、やがて独立行政法人になって独立採算制が導入され、授業料を払うためにバイトが忙しくて勉強する暇がないなどと笑えない状況が続いています。

    小泉総理が米百俵という言葉を使った時には教育予算が増えるかと期待しましたが、総理は言葉の本当の意味を知らなかったようです。
    資源の無い我が国が生き残るためには技術立国しかありません。
    その生命線である教育にもっと多くの予算を回すべきです。

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