子どもの貧困 ~未来へつなぐためにできること

足掛け3年もかかってしまいましたが、ようやく5月25日に私が書いた初めてのが出ます。

NPO法人キッズドアを2009年に設立してから10年間近く、私は子どもの貧困の現場を見続けてきました。

「勉強が苦手だが塾に行くお金がなから、高校に行けない子どもがいるなら、無料で勉強を教えてあげればいいんだ!」

と軽い気持ちで踏み込んだ、「子どもの貧困」の実態は、私の想像をはるかに超えた、理不尽で深刻な状況でした。

なぜ、こんなになるまで放置されてきたのか!という驚きを隠せません。

日本人は優しい、思いやりのある国民だと言われていますが、現場にいると「なぜ、このような状況を放っておけるのか?」と、怒りが湧いてきます。

「スマホを持っているから貧困ではない。」というような古い観念にとらわれた貧困バッシングや、「お金がないのは怠けているからだ。」という自己責任論は、「子どもの貧困」という社会課題の解決を妨げる最大の要因です。

実態をよく知らないままに投げかけられる言葉が、どれほど子どもたちやその親を傷つけているでしょう。

「日本の子どもの貧困」を解決する一番の早道は、今起こっている子どもの貧困の実態を一人でも多くの方々が理解することです。どなたにでも読んでいただけるように、できるだけわかりやすい言葉を選び、心を込めて書きました。

 私が出会った子どもたちも親も、皆大変な状況で頑張っています。みんなで子どもたちを応援するために、まずは手にとってお読みいただければ幸いです。

すべてのこどもたちが夢や希望をもって生きられる社会を目指して、これからも皆様と力を合わせていければと思っております。

 

<内容紹介>

きちんとした身なり、おしゃれな子もいる、清潔感もある。スマホも持っている。
でもお昼代は100 円、そして1,000 円の参考書が買えない。
ひと目ではわからない「子どもの貧困」はなぜ起きているのか…。

現在、日本の子どものおよそ7人に1人が貧困の状況と言われている。厚生労働省発表「子どもの貧困率」は2009 年の14.2%から2014 年には16.3%に上昇、そして多くのメディアが「子どもの貧困」を取り上げ、政府も緊急の課題として検討を進めている。

一見それとはわからない子どもの貧困。「自己責任論」などの安易な批判や「かわいそうな子どもたち」という福祉的観点で捉えるむきもある。しかしそれは近い将来、日本経済の破綻を招きかねない重大な問題であり最優先で取り組む課題である。

本書は子どもの貧困問題を生活保護など増大する福祉コストや高止まりする非婚率、少子高齢化等の社会問題と関連づけて考察し、また「子ども食堂」や「フードバンク事業」そして「無料教育支援」などの取り組みを紹介する。政府や自治体、企業、NPO、市民それぞれが問題解決のため何ができるのかを考える

【目次】
はじめに

第1章 「大学生って本当にいるんだ」
見えづらい日本の子どもの貧困
お昼代の予算は100円
お金かかるならいかない
眼鏡なんか買えない
大学生って本当にいるんだ
この子が今ここにいる事が奇跡みたいなもんだから
これって現実かな
今日、私、お誕生日なんだよ
今、白血病で入院しているんです
風邪で亡くなった母の気持ち
震災で家財を失い
兄弟が多くてすいません
お金がないならしょうがないのでしょうか?
お金がかかれば部活はできない
あなたのすぐそばに困っている子どもたちはいる

第2章 教育格差の実態
なぜこんなに成績が悪いのか
家に勉強する場所がない
すべての親が勉強を教えられるわけではない
夏休みなんて
多様化が進む家庭や親
お金がなくても本人が頑張ればどうにかなるのか?
15歳で将来をあきらめる子どもたち
教育格差が起こる原因
貧困の連鎖
本人の努力では格差は埋まらない
勉強の仕方そのものを知らない
暗記の仕方がわからない
情報やノウハウの欠落による誤った自己認識
高度化する情報社会を生きる子どもたち
プログラミング教育の可能性
貧困の連鎖を断ち切るために

第3章 現場で起きている奇跡
学校の先生、ダメじゃん
寄り添って教えてくれる誰か
「勉強を教える」ことの本当の効果
深刻なコミュニケーション機会の不足
相手の言っていることを理解する
非認知能力を育てる
勉強嫌いのレッテルを貼らない
発達障害や不登校と子どもの貧困
ボランティアが発見したつまずきの原因
貧困と不登校やいじめ
現在のキッズドア

第4章 私たちが大事にしていること
私がキッズドアを始めたきっかけ
最高の魚の釣りかたを教えたい
お金のあるなしと、人間の優劣は関係ない
教育にこだわる。結果にコミットする。
学力を上げるむずかしさ
学習日以外の準備が大事
それでも子どもは親を待っている
他機関との連携
ボランティアによる指導へのこだわり
片親だから行き届かないのか
ボランティアする側に回る
大学生の成長
この子と自分の違いに気づく
社会人との交流
ホームレスの人と話をすること
会社でえらくなって欲しい

第5章 子どもの貧困対策は「福祉」ではなく「将来への投資」
動き始めた子どもの貧困対策
少子化と子どもの貧困
まったなしの子どもの貧困対策
子どもの貧困対策は「福祉」ではなく「将来への投資」である。
国をあげて子育て支援の充実を
2050年、あなたは何歳ですか?
子ども・若者・子育て支援に資金を投入しよう
企業の積極的な参加を!
あなたも今すぐ行動をしてみませんか?
子どもの貧困の誤解は解けましたか?

著者について

千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経てフリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 配偶者の転勤に伴い、1 年間英国で生活、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験。2007 年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009 年内閣府の認証を受け特定非営利活動法人キッズドアを設立。同法人理事長。日本のすべての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、第9 期東京都生涯学習審議会委員、専修大学非常勤講師。「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」設立世話人・副代表幹事

子どもの貧困-未来へつなぐためにできること

全世帯型社会保障と教育無償化についての現場からの考察

新政権が発足しました。幼児教育無償化、教育無償化、など少しずつ全容が見えてきましたが、今ひとつ現場実感と合っていないので、もし、私が総理だったらどうするか、という視点で考えて見ました。

まず、課題の整理です。

1)少子高齢化に寄る人口減少

少子化では、稼ぐ人が急激に減っていき、年金制度を筆頭に現在の社会保障制度が成り立たなくなるというのが大きな問題です

高齢化に関しては、ベビーブーマー世代が後期高齢者に入り高齢者のボリュームが増えること、加えて一個人としてみると長寿化で年金で支えなければならない期間が増えるという課題があります。つまり、年金受給者が増える&一人当たりの総年金受給額も増えるという状況です。そしてこれは年金だけではなく、医療費も生活保護等の高齢者の社会福祉ににかかる費用においてすべて同じです。Wパンチ、トリプルパンチどころか、ボコボコの状態です。

日本の財政の1 /3は社会保障ですが、社会保障費のうち 35%は毎年高齢者に支払っている年金の不足分に使われており、さらに30%は医療費ですがその多くは高齢者の方の医療費です。とかくバッシングされる生活保護費は8%ほどしかありませんし、実は生活保護煮しめる高齢者の比率も高いのです。

つまり、日本の社会保障は、高齢者世代に偏っており、子育て世代などの現役世代への給付が少なすぎるのです。子育てや失業者のための就労訓練など若者にほとんど使わないので、本来もっと社会保障を配分していれば伸びるであろうGDPを失っていると考えられます。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2015pdf/20150302089.pdf

一足早くこの状況に陥っている多くの地方では「地方消滅」と言われていますが、今の状態を放置すれば間違いなく「日本消滅」です。

このように、日本の人口構成に関する大きな課題があります。

 

2)教育に関する課題

さらに、日本は世界で最も優れた教育を提供している国だという幻想を抱いている方も多いようですが、教育に関しては2つの大きな課題があります

A  教育費の自己負担が高すぎるため少子化の原因となっている

B  教育の内容が古く、学校の体質改善も進まないため、「学校」のみの教育に限界がきている

それぞれについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

 


A  教育費の自己負担が高すぎるため少子化の原因となっている


これは、税金を教育に投じていないからであり、特に未就学児(幼児教育)と高等教育(大学や専門学校など)の学費が高すぎるという課題があります。子育てや教育にお金がかかるために子どもを産むのをやめる、本当はもっと欲しいけど一人しか産まない、というような状況になっており、教育費の自己負担の高さは、少子化の最大の要因です。

ちなみに、保育園が足りないために子どもを産まない、という状況も生じており、これも少子化や女性の労働生産性向上という観点で大きな課題です。保育園の整備に関しては、高齢化や教育問題と比較すると非常に解決しやすい課題でもあり、(高齢者の医療費の自己負担率を上げるとか、年金支給を75歳にするとかに比べれば)、効果も高いので最優先で取り組むべきでしょう

 

■全世帯への幼児教育無償化は必要か?

幼児教育無償化に関しては、高所得世帯も含めて一律に無償化にするべきかどうか、という議論があります。

幼児教育無償化推進派の意見を整理すると、幼児期に非認知能力(忍耐力やコミュニケーション能力など)を上げる教育投資が成人後最も自立して稼いでいるという投資効率の良さの研究(ジェームズ・J・ヘックマン https://store.toyokeizai.net/books/9784492314630/)がその主張の根拠になっています。

しかし、それは、幼児教育の重要さを訴えたものであり、無償化を必須とするわけではありません。すでに4歳児で95%以上、5歳児では98.5%が幼稚園か保育園に通っている現状では、幼児教育は行き渡っていると考えていいのではないでしょうか?ヘックマン理論によるのであれば、幼児教育への投資は、無償化ではなく、さらなる教育の質の向上に使った方が将来のリターンは大きくなるでしょう。私個人としては、幼児教育無償化の前に、保育園の整備や保育士不足解消への予算振り分けの方が優先度は高いと思います。

 

■幼児教育と高等教育のどちらを先に無償にするべきか?

少子化対策の観点から幼児教育無償化か、大学や専門学校等高等教育の無償化のどちらが効果が高いでしょうか?

これについては、明確な比較は見つけられませんでしたが、私が教えている大学の学生に聞いて見たところ、高等教育無償化に軍配が上がりました。正直自分の子育てを考えて見ても、子どもが小さいうちは食事の量も少ないですし被服費や教育費もそれほどの負担は感じませんでした。が大きくなるにつれ、食事の量も増えますし、学校の制服や部活の道具、さらに塾などの学校外教育費などとてつもない額のお金がかかります。今、「お金がかかるから子どもを産まない」と言っている層も、「幼稚園や保育園に通わせるお金がない。」と出産を控えるのではなく「将来、大学に行かせてやれるかわからない。」から出産を控えているのではないでしょうか?

こう考えると、幼児教育無償化よりは、給付型奨学金の大幅拡充や学費の減免など高等教育無償化をしっかりと作り上げた方が少子化対策効果は高いと思われます。

 

■全世帯の幼児教育無償化は格差を広げる可能性がある

現在検討されている2019年度から段階的に、0~2歳児は低所得層限定で、3~5歳児は全世帯を対象に無償化する方向で調整が進んでおり、さらに財源の不足から保育料負担の高い認可外保育園が無償化から外れる可能性も出てきました。

現在保育料は、所得の高い家庭の保育料は高く、所得の低い家庭は保育料負担も低く抑えられています。つまり、3〜5歳児の保育料を全世帯無償化すれば、高所得家庭の保育料負担が減るだけで、税による「所得の再分配」機能と全く逆のことが起こります。

認可に入れず、やむなく認可外の保育園に入れて働くしかない中低所得家庭が10万円近い保育料負担をしなければならないのに、保活を頑張った高所得家庭の保育料が税金で負担されるというのは、納得しづらいものがあります。

政府が最優先で行うべきは、全世帯の保育料無償化でなく、待機児童の解消であり、女性が安心して子どもを産んで働ける社会の実現だと思います。

 

■幼児教育無償化に関するまとめ

少子高齢化の解決策として幼児教育無償化を行うのであれば、あえて多額の税金を投入して幼児教育を無償化することが、少子化対策に繋がるのか、の検証が必要です。3~5歳児の幼児教育無償化には8000億円がかかるとの推計がありますが、これだけの費用をかけて何を成果とするのか、はしっかりと明示する必要があると思います。少子化対策のためならば、幼児教育の無償化よりも待機児童問題を優先し、余った予算は、少子化の大きな要因となっている高等教育の無償化に振り向けるべきでしょう。

もちろん、お金がたくさんあるのなら、幼児教育も無償化した方がいいに決まっていますし、子ども保険のような新たな財源で幼児教育無償化を目指すのであれば、それも良い考えだと思います。

何のための施策で、それによりどういう成果を求めるのか?さらにそれが本当に成果に上がるのかの調査などをしっかりと行う。例えば、20代〜40代のこれから出産する可能性のある方々に、

1)待機児童の解消  
2)幼児教育無償化 
3)大学等高等教育の無償化 
4)児童手当の増額(現在月1万円を倍額に) 

について、優先順位を聞いてみるような意向調査は有効だと思います。

 

 

 

■大学無償化に関して

まず、高等教育無償化なのか、大学教育無償化なのか?が明確になっていません。「大学等」となっていますが、専門学校という記述は見られないので、おそらく、大学や短大などに限定される可能性が高いと思います。

高校卒業後、2割弱の生徒は専門学校に通います。また、日本では高所得世帯ほど大学進学率が高いため、専門学校に通う子どもの家庭の所得は中低所得の割合が多いと思われます。高等教育無償化を考えるときに、専門学校が対象に入るのかどうかは、大きな問題です。私個人としては、専門学校に通う生徒にも無償化または一定の学費補助などを行うべきだと思います。

 

■実は大学無償化ではなく所得連動型奨学金の導入である

11月2日に発表された自民党の案では、保護者の所得に関わらず、国立大学を全て無償化し、私立大学は国立大学の学費分と同じ額を無償とし、不足分は無利子の奨学金を用意するという形です。しかし、報道を見る限りでは、大学卒業後一定の収入を得られれば返還すると言うことです。つまり学費無料ではなく「所得連動型奨学金」と言われる新しい奨学金システムを導入すると言った方が正しいのではないでしょうか?

*所得連動型奨学金http://www.jasso.go.jp/shogakukin/seido/type/1shu/shotokurendo.html

 

自民党の教育再生実行本部(本部長・馳浩元文部科学相)案を検討すると、学費負担の難しい中低所得家庭の子どもは、所得連動型奨学金と貸与型奨学金の2つの奨学金を背負うことがスタンダードになるようです。社会に出た途端に、借金漬けというイメージは、少子化をさらに加速させるのではないでしょうか?

 

■国公立大学の一律学費無償化に関して

そもそも、学費の安い国公立大学の学費を無償にする必要があるでしょうか?多くの国公立大学では、すでに、低所得家庭の学生のための学費免除制度があります。キッズドアでボランティアをしてくれる学生にも学費免除の生徒がいます。

東京大学に通う保護者の平均年収が1000万円以上と言われるように、今や国公立大学への進学者は、私立高校からの進学割合が高く、「苦学生」のイメージとはかなり違います。そもそもセンター試験&2次試験の対策は高校生への負担が重く、予備校などに通う方が圧倒的に有利です。低所得家庭でアルバイトもしなければならないような高校生にはかなり難しいのです。

国公立大学は一律無料にすれば、高所得家庭に税の再配分をすることになります。さらに、その高所得家庭の学生も含め一律、将来働いて学費を返還する、つまり所得変動型奨学金で負担を自分の未来に先送りすることは、結婚や出産を躊躇させ、少子化をさらに加速させることにもなりかねません。また、所得連動型奨学金はしっかりと経済成長が見込める国ならば、インフレーションにより相対的に借りている奨学金の負担は減りますが、低成長が続く現在の日本の状況では、それも見込めないため、若者にとっては望ましい学費無償の形態ではないと考えます。

 

■所得に応じた学費の導入

財源が限られる中、大学の学費は、一律に無償化するのではなく、給付型奨学金のように、どのような所得層の子どもも躊躇せずに大学進学を選べる道をつくる方が相応しいと思います。

例えば、所得連動型学費制を導入するのはいかがでしょうか?年収1千万円以上なら満額、それ以下は半額、600万円以下は無料などというように、家庭背景に応じた配慮を行うのです。これなら、学生が将来の返済の負担を感じることもありません。

 

■少子化対策として多子家庭には大胆な配慮を

少子化対策として大学の学費を考えるのなら家庭の所得や子どもの人数に応じて、収めるべき学費が決まる「多子割」というような考え方が有効だと思います。少子化の大きな原因は、「子どもが増えると大学に行かせてやれないから、本当は、2人、3人子どもが欲しいけれど、1人しか産まない。」という高等教育をきちんと与えてあげられるかどうかの不安だと思います。

国公立大学の学費は、子どもが一人しかいない家庭は満額、2人兄弟なら半額、3人以上なら全員無料にするなど、子どもが多くいる方が得をする制度設計にすれば、もっと、子どもを産もう、という人も増えるでしょう。

 

 


B  教育の内容が古く、学校の体質改善も進まないため、「学校」のみの教育に限界がきている


■高等教育無償化の前にやるべきこと

現在の日本の教育は非常に大きな課題を抱えていますが、それは、幼児教育と大学教育の無償化ですべて解決するのでしょうか?私は大学無償化の前に、教育の質や学校システムの疲弊については、今すぐに取り組まなければならないと思います。

まず、公立小中学校の基礎教育の担保がなされていません。小学校も中学校もきちんと通っていたのに、九九ができない、英単語を全く覚えていない中学3年生がいます。

 PISAの学力テストでいまだ学力上位であるとメディアには流れますが、それは学校の教育力を表しているのでしょうか?

 今では小学6年生の通塾率は47.3%、中学生にいたっては61.1%です。

塾というと成績が悪い子が通う補習塾というイメージをお持ちの方も多いでしょうが、いわゆる受験塾と言われる塾に通っている子の成績が高くなっています。学力テストの成績上位者は学校の教育成果というよりは塾の教育力によるところも大きいのではないでしょうか?小中学校の時代から塾などの学校外教育に通えない子は不利があります。低所得家庭に塾代を補助するような自治体も出ていますが、現実的に格差を埋めるためには、塾等の学校外教育の機会均等をどうするのか?という大きな課題があります。

 

■21世紀を生きる力の教育は誰が行うのか?

さらに、学校教育の中身は長らく変わっていませんが、社会で求められるスキルは大きく変わっています。私は自分を含め、公立中学校、高校の授業だけで英語でコミュニケーションが取れるようになった人に、まだ出会ったことがありません。英会話スクールに行ったり、留学をしたり、と学校外で英語のコミュニケーションを習った人がほとんどではないでしょうか?

ますますグローバル化するこれからの時代に、低所得家庭の子どもは英語力で大きなディスアドバンテージがあります。加えてITも低所得家庭の子どもはスキルを身につけられません。小中学校のIT室は立派ですが有効に使われているとはいいがたく、自宅にパソコンがない子どもは、そもそもITに触れる機会がありません。就職のエントリーシートや大学のWeb出願はもちろん、インターネットを使いこなして必要な情報を取り、色々なことを学ばなければならないのに、その入り口に立てない状況です。

 

■全子育て世帯へのネットインフラの無償化を!

私は、キッズドアの活動を始めた時から、子育て世帯のネット回線の無料化を提案しています。パソコンの価格は安くなりましたが、月5000円程度のネット回線料はとても高く低所得家庭には無理です。インターネットには、無料の動画教材や英語学習の教材がたくさんありますが、そもそもそこにアクセスできないのです。原物支給として回線を渡すことで、子どもの未来は大きく変わると思います。

低所得家庭の子どもや、塾や英会話教室、ITスクールなどがない地方のこどもは、公立小中高校の教育しか受けられないところが、最大の課題だと思います.

キッズドアでも、英語やITや起業教育などの新しいコンテンツを無料で提供することに挑戦しています。しかし、ひとつのNPOができることは限られており、早急に国の方針を決めるべきだと思います。

例えば、ほぼ全ての小中学校にあるIT室を、図書室のように放課後解放し、そこに、大学生のボランティアや引退したビジネスマンがいて、子どもたちにパソコンの正しい使い方を教えるような取り組みは、すぐにでもできるのではないでしょうか?

 

■すべての子どもたちが21世紀に必要な教育を受けられる環境整備を

少子化対策としての「学費負担の軽減としての高等教育無償化」と、教員の負担増、いじめや自殺の問題、さらに全国民への基礎学力(読み書きそろばん)が担保されない現状など、すでにシステム疲弊が限界にきている公立小中高校の立て直しは、分けて考えられるべきです。そして、両輪をしっかりと動かして行かなければなりません。やみくもに大学教育無償化を進めれば、教育投資にお金を注ぎ込める家庭の子どもだけが、国公立大学の無償化恩恵を、さらに自分の21世紀型スキル(英語やIT)に注ぎ込み、中所得以下の国民の大多数は、アップデートされない学校教育を受けざるを得ず、ますますグローバリズムから置いて行かれるという悪循環が生まれ兼ねません。

すべての子どもが、最低限の学力保証(読み書きそろばん)と共に21世紀に必要な教育を受けられる環境整備を最優先で行うべきだと思います。

 

■目的と資金配分についての早急な検証が必要

何よりも懸念されるのは、あまりにも拙速に「教育無償化」という言葉が一人歩きし、様々な施策が実施されようとしている点です。確かに消費税を上げることで2兆円という財源ができるかもしれませんが、十分な教育無償化を行おうとすれば、すでにそれだけでは足りないことがわかっています。限られた財源をいかに有効に教育投資に、少子化対策に振り向けるのか?それについては、もう少し丁寧な議論が必要ではないでしょうか?

これは、単に幼稚園・保育園の月謝や大学の学費を無償にするというような単純な話ではありません。塾、英語などの語学、ITスキルやプログラミング教育、様々な体験活動など、重要性が増している、現在はほとんど税が投入されていない学校外教育を、日本の教育体系の中でどのように定義するのか?の議論は必須だと思います。

闇雲な教育無償化が、教育のさらなる混乱や格差拡大に向かわぬよう、ぜひ慎重な検証をしてほしいと思います。

 

「あったものをなかったものにできない。」からもらった勇気

前川前文部科学省事務次官が、加計学園をめぐる文書で記者会見をされた。

様々な憶測が流れていて、何が真実か見えづらい。

 

実は、前川氏は、文部科学省をお辞めになった後、私が運営するNPO法人キッズドアで、低所得の子どもたちのためにボランティアをしてくださっていた。素性を明かさずに、一般の学生や社会人と同じようにHPからボランティア説明会に申し込み、その後ボランティア活動にも参加してくださっていた。

私は現場のスタッフから「この方はもしかしたら、前文部科学省事務次官ではないか」という報告は受けていたが、私が多忙で時間が合わず、また特になんのご連絡もなくご参加されるということは、特別扱いを好まない方なのだろう、という推測の元、私自身は実はまだ一度も直接現場でお目にかかったことがない。

 

担当スタッフに聞くと、説明会や研修でも非常に熱心な態度で、ボランティア活動でも生徒たちに一生懸命に教えてくださっているそうだ。

「登録しているボランティアの中で唯一、2017年度全ての学習会に参加すると○をつけてくださっていて、本当に頼りになるいい人です。」

と、担当スタッフは今回の騒動を大変心配している。年間20回の活動に必ず参加すると意思表明し、実際に現場に足を運ぶことは、生半可な思いではできない。

今回の騒動で「ご迷惑をおかけするから、しばらく伺えなくなります」とわざわざご連絡くださるような誠実な方であることは間違いがない。

 

 

なんで、前川氏が記者会見をされたのか?

今、改めて1時間あまりの会見を全て見ながら、そして私が集められる様々な情報を重ねて考えてみた。

これは、私の推察であり、希望なのかもしれないが、彼は、日本という国の教育を司る省庁のトップを経験した者として、正しい大人のあるべき姿を見せてくれたのではないだろうか?

 

私は今の日本の最大の教育課題は「教育長や校長先生が(保身のために)嘘をつく」ことだと思う。

いじめられて自殺をしている子どもがいるのに、

「いじめはなかった」とか

「いじめかそうでないかをしっかりと調査し」

などと、校長先生や教育長が記者会見でいう。

「嘘をついてはいけません。」と教えている人が、目の前で子どもが死んでいるというこれ以上ひどいことはないという状況で、明らかな嘘をつく。

こんな姿をみて、子どもが学校の先生の言うことを信じられるわけがない。

 

なぜか学校の先生には、都合の悪いことが見えなくなる。周りの生徒が「いじめられていた。」と言っているのに「いじめ」ではなく、「友達とトラブルがあった」とか、「おごりおごられの関係」になったりする。

それは今回の、あるはずの文書が「調査をしてみたが、見つからなかった。」であり、「これで調査は十分なので、これ以上はしない。」という構図とよく似ている。

 

自分たちの都合のいいように、事実を捻じ曲げる。

大人は嘘をつく。

自分を守るためには、嘘をついてもいい。正直者はバカを見る。

 

子どもの頃から、こんなことを見せられて、「正義」や「勇気」のタネを持った日本の子どもたちは本当に、本当にがっかりしている。何を信じればいいのか、本当にわからない。

小さなうちから、本音と建前を使い分け、空気を読むことに神経を尖らせなければならない社会を作っているのは、私たち大人だ。

 

 

「あったものをなかったものにできない。」

 

前川氏が、自分には何の得もなく逆に大きなリスクがあり、さらに自分の家族やお世話になった大臣や副大臣、文部科学省の後輩たちに迷惑をかけると分かった上で、それでもこの記者会見をしたのは、

「正義はある」

ということを、子どもたちに見せたかったのではないだろうか?

 

「あったものをなかったものにはできない。」

 

そうなんだ、嘘をつかなくていいんだ、正しいものは正しいと、間違っているものは間違っていると、多くの人を敵に回しても、自分の意見をはっきりと言っていいんだ。

 

子どもたちとって、これほど心強いことはない。

 

「正義」や「勇気」のタネを自分の心に蒔いて、しっかりと育てていいんだ。

どれほど心強いだろう。

 

 

今回の記者会見は、前川氏にとっては、何の得もないが、我々日本国民には非常に重要な情報である。報道によれば、くだんの大学のために、37億円の土地を今治市から無償譲渡し、96億円の補助金が加計学園に渡る計画だという。

もし、大学が開学すれば、さらに毎年国の補助金が渡ることになる。

 

96億円の補助金とはどれぐらいの額だろうか?

昨年、私たちを始め多くの団体やたくさんの方々の署名によって実現した給付型奨学金の年度予算は210億円だ。一人当たりの給付額も少ないし、人数もとても希望者をカバーできるものではない。なぜ、こんなに少ないのか?というと、「国にお金がないから」という。

 

お金がないのに96億円、土地も合わせれば136億円もの税金を投じて、新たに逼迫したニーズを見られない獣医学部を作るお金を、給付型奨学金に回したほうがいいのではないだろうか?

 

前川氏の記者会見は、このような税金の使い道について、もう一度国民がしっかりと考える機会を作ってくれた。

 

今、憲法改正による教育無償化がにわかに浮上している。私は教育無償化に賛成だ。いや、賛成だった。

しかし、大学の設置や補助金に信頼性が置けない現状では、憲法を改正してまで教育無償化を急ぐことに、大きな疑念が生じている。

結局、あまり市場ニーズのない、教育力のない大学等に、「子どものため」と言って税金がジャブジャブと投入され、子どもは質の良い教育を受けられない状況は変わらずに、一部の人だけが豊かになる。

そんな構図が描かれているとしたら、恐ろしいことだ。

 

これが事実かどうかは、わからない。しかし、そんなことを考えさせてくれる。

 

記者会見は、前川氏や彼の家族にとってはいいことは何もないが、本当は必要のない大学に多額の税金が使われるという、大きな損失を防ぐかもしれない。そのために、彼は勇気を出し正義を語ったのではないだろうか?

 

「あったものをなかったものにはできない。」

 

何が真実なのか、私たちはしっかりとこれからも探求していかなければならない。

 

今後、どのように動くのか全くわからないが、私たちは、文部科学省というこの国の教育を司る省庁のトップに、強い正義感と真の勇気を持った素晴らしい人物を据える国であり、時に身を呈して、国民のためにたった一人でも行動を起こす、そんな人が政府の中枢にいる国だということは間違いない。

 

*前川氏がボランティアされていたことをブログに書かせていただくことは、弊団体広報を通して事前にご本人に確認をとっております。

進次郎頑張れ!!私は「こども保険」を全力で応援します

小泉進次郎衆議院議員が、自民党の「人生100年時代の制度設計特命委員会」の事務局長に就任された。小泉氏は将来の社会保障制度について、「高齢者偏重を是正し、真の全世代型にする」と述べている。

小泉氏の一押しは『こども保険』だ。
こども保険とは、社会保険料率を0.1%上乗せすることで3400億円を確保し、未就学児に1人当たり月額5000円を支給。将来的には上乗せ分を0.5%に引き上げて1兆7000
億円を確保し、保育・幼児教育を実質無償化する制度だ。(参照:時事ドットコム

私は常々、現状の日本では幼児教育無償化よりも、高校生世代への支援(児童手当の18歳までの延長)や高等教育(大学や専門学校)の給付型奨学金充実や教育無償化が必要と訴えている。しかし、それでもなお、こども保険大賛成だ。こども・若者にお金を使ってくれるなら、幼児教育無償化でもなんでもいい。妊婦から30代のフリーターまで、とにかく資金を投入して「安心してこどもを産み、育てられる国」にしなければならない。

「そうだよね、このままだと将来大変だよね。」と思いがちだが、将来の話ではない。間違いなく「今」の問題だ。
少子化では出生率が話題になるが、実は出生数が重要である。出生率が多少増えても、母数となるこどもを産める世代の数が縮小していくので、こどもの数は激減する。15歳未満の年少の人口は12.4%、75歳以上の後期高齢者が13.3%と完全に逆転した。高齢者は増え続け、年少者は減り続ける現実から、すべての国民が目をそらしてはいけないのだ。

■こども保険に反対する人は、頭が悪いとしか思えない。

こども保険には反対意見も多いそうだ。
「子どもがいない人からも保険料を取るのは不公平」
「子どもはいるが保険料を払わない人にも給付するのか?」

バカじゃないかと思う。

今の現役世代はもちろん、子どもや若者は、絶対自分が払った分は取り戻せない年金を納めることを強いられる。
国の財政支出の3分の1を占める社会保障費のうちの44%は年金と介護で完全に高齢者のためのものであり、さらに30%を占める医療費の大部分は高齢者の医療費だ。社会保障に占める高齢者向け支出は7割とも8割とも言われる。バッシングされる生活保護費は社会保障費全般の9%しかなく、しかもその半分は65歳以上の高齢者である。
参考:平成27年度社会保障関係予算(厚生労働省)

自分の親がいない児童擁護出身の孤児も、すでに両親がいない若者も、見ず知らずの高齢者のために多額の年金と税金を納めているのだ。

「子どもがいない人から保険料を取るのは不公平」なら「親がいない現役世代から年金や税金を全額取るのは不公平。7割引にするべき。」となる。

高齢者は自立できないから社会で支えなければならないのなら、少なくとも18歳以下の子どもだって自立できない。社会で支えなければならない。これは当たり前のことで、日本以外の世界中の多くの国が、子ども手当を充実させて、教育の無償化を実現している。
日本だけが「好きで子どもを産んだのだから、自分で育てるべき。」と自己責任論が未だに大手を振って歩いている。だから、子どもを産めないのだ。

2015年度補正予算で低所得の年金生活者に1人3万円の臨時給付金を配った。財源は3400億円。私たちをはじめ多くの関係者がたくさんの署名を集めやっと実現した給付型奨学金は、年間たった210億円だ。全国民から集めた税金を高齢者には気前よく3400億円を配るかたわら、次の世代を担う子どもには、こども保険のわずか0.1%も払いたくない。

狂っているとか言いようがない。
日本人とはそのような国民なのか?

超高齢化が進む中で、シルバーポリティクスは進む。高齢者は確かに自分たちが苦しむ道を示す政治家に1票を投じないかもしれない。高齢者の票を失うリスクをとっても、日本の将来のために「高齢者偏重の是正」を訴える小泉進次郎議員を私は全力で応援する。

もっと言えば、全ての候補者がちょっと考えれば、今、何をするべきかは見えているはずである。全ての候補者が「高齢者偏重の是正」を訴えればその争点は消える。その中でなおも「高齢者にお金を配ろう」という候補者は、日本の将来よりも、目先の選挙のことしか頭にない証明であり、そういう人物が政治家としてふさわしいかどうかは明白である。

「人生100年時代の制度設計匿名委員会」事務局長となった小泉進次郎議員を全力で応援する。この国の未来のために、次世代を担う子ども・若者のために、進次郎頑張れ!

=お願い=
私が運営するNPO法人キッズドアでは、低所得世帯の子どもたちへの無料学習支援を行なっています。
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「日本のこどもを支援したい」という多くの大学生や社会人のボランティアが、1000人以上の子どもたちの学びを支えています。また、活動は皆様のご寄付に支えられています。新年度が始まり、まだまだボランティアも寄付も足りません。ぜひ、ご協力ください。

http://www.kidsdoor.net/supporter/

 

感情論に走る前に大学教育がどれだけ日本経済に寄与するかを冷静に判断するべきだ —中国が教育に力を入れている理由

文責:渡辺由美子(2017/2/2)

2017 年 1 月 31 日、日本初の給付型奨学金の創設が決まった。支給額は月額2~4万円、対象は約2万人。

現在、貸与型奨学金を借りている大学生は 130 万人を超えるので、2万人という規模は寂しいばかりであるが、それでも、給付型奨学金ができたのは大変喜ばしいです。

1月の安倍総理の施政方針演説でも、「どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。そのためには、誰もが希望すれば、高校にも、専修学校にも、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。」と、述べていらっしゃいます。
私もその通りだと思います。

それに対して、1月26日の予算委員会で民進党代表代行の細野豪志議員が、生活保護家庭の子どもが大学進学をしやすいように、世帯分離をやめましょうと訴えてくださっています。 (この問題に関してはNPO法人フローレンスの駒崎さんの投稿に詳しいです。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1377766165630333&set=a.177482192325409.44163.100001908875239&type=3&theater

これに対しては、賛否両論があります。否の方は「そうは言っても、生活保護を受けずになんとか少ない収入でやりくりしている家庭もたくさんある。家庭の支援を一切受けられずに、たくさんアルバイトで頑張っている生徒も多い。そういう学生に比べて、生活保護家庭の学生に優遇しすぎではないか?」

というものです。貧困バッシングに他なりません。

みなさん、ちょっとメガネが曇っちゃっていますよ。 “感情論に走る前に大学教育がどれだけ日本経済に寄与するかを冷静に判断するべきだ —中国が教育に力を入れている理由” の続きを読む