キッズドア応援クラブメンバー企業インタビュー<第1回>】

やきとん木々家(はやしや)(株式会社HBGC)
代表取締役 林田 博之氏

“楽しい”を設計し「楽しい会話をした記憶」を持ち帰ってもらう

2008年の12月に、やきとん居酒屋「木々家(はやしや)」の経営を始めました。
一般的に見れば、やきとんと美味しいお酒を提供する居酒屋ですが、私たちがお客様に持ち帰っていただいているのは、「楽しい会話をした体験もしくは記憶」です。私たちは“楽しい”を設計してお客様に販売しています。

現在、7店舗に拡大しましたが、経営で大切にしているのは、チームビルディングです。
楽しんで働いている人がそこにいるからこそ、そこで飲んで食べていると結果的に楽しい会話ができるという考えから、木々家にきて持ち帰ったものとして記憶にあるのは“楽しかった会話”、でも言葉から出てくるのは「やきとんうまかった」とお客様に言ってもらえることを私たちは設計しています。

人生最大の覚悟 株式投資家から「食」業界へ
ネガティブ思考からの徹底した実践

高校卒業後はずっとフリーターで、「使えね−」などと否定されまくっていたので、「見返してやりたい!なけなしのお金を増やしたい」という単純な理由で、2005年から株式投資を始めました。

ちょうど個人投資家ブームで、そこそこパフォーマンスは出ましたが、やっている事はギャンブルと一緒。社会に価値を生んでなかったことが原因なのか、ただただ虚しく、精神的に満たされるものはありませんでした。

子どもがいるのに「こんなことでいいのか?」と疑問を感じ、生きることを目的に地に足がついた商売がしたいなと思ったんです。「とにかくやるしかない!」人生において最も大きな覚悟でした。

弟と一緒にやろうということになり、衣食住に関わることなら食いっぱぐれないんじゃないかと考えた。「住」に関しては家の売買や仲介などやったこともないし資格も必要。「衣」については、私も弟も服に全く興味がなくデザインなんて1番遠い。服を買うのも現金が必要だし在庫を抱えて大変というのをよく聞いていたので、消去法で残ったのが「食」。

しかし、おいしいものを作るなんて未経験で無理だし、作れることといったらウーロンハイぐらい。そこで居酒屋が決定したんです。(笑)

自分は居酒屋の外を担当、弟が中を担当ということが決まり、弟をアルバイトで雇ってくれたのが、焼きとん屋さんでした。もし他のところに雇われていたら、焼きとん屋をやってなかったかもしれません。

どんな店を作ればいいかを考えたときに、良い店のヒントは全く浮かばないけれど、嫌な部分はどんどん出てくるんです。僕はずっと否定されてきたせいで、ものの考え方がとてもネガティブなのです。

自分が居酒屋を選ぶ時に考えていることを言語化してみると、あそこはトイレが汚い、あの店はおしぼりが臭い、テーブルが汚い、店員がムカつく、そもそも料理がうまくない・・・これを全部排除したらいいんじゃないかと仮説を立てた。覚悟を決めて徹底して実践したことが、結果的には正解でしたね。

子どもたちに「楽しいことをしよう」「チャンスしかない」を言い続けたい

幼少期に新大久保で育ったため周りに経済的に難しい人がたくさんいて実際に見てきたので、子どもの貧困については経験的に知っていました。僕自身もそうでしたから。やる気がない子、攻撃的になってしまう子たちの心情がすごくよくわかります。

個人的にアフリカやアジアの子どもたちへの支援は行っていましたが、実際に日本の貧困といわれる子どもたちに向けての支援は、まだまだできないと思っていたところ、ある社員からキッズドアのことを知らされ、「おお!こんなのあるのか!」とすぐに詳細をうかがってキッズドア応援クラブで支援を始めました。事業拡大で店舗数を増やすごとに、支援の口数を増やしています。

子どもたちへは、「楽しいことをしよう」「チャンスはたくさんある」「可能性しかない」ということを言い続けたいですね。チャンスをうまく見つけられない人もいるかもしれないけれど、「チャンスしかない」「可能性しかない」と言い続けると、人はだんだん「そうかな」と思い始めるんです。

孫正義さんは、在日韓国人で福岡の学校でひどい差別を受けて育ったそうですが、お父さんは、「お前は天才だ!」と1日に何百回も言い続けてきたそうです。毎日のように「お前は天才だ!」と言われてきたので、孫さんは「俺って、もしかしたら本当に天才かもしれない」と思うようになったそうです。

子どもには無限の可能性があります。それを親が信じず、誰が信じるんでしょうか。

子どものためを思って「勉強しなさい」という親、「そんなことやってちゃだめでしょう」と否定する大人は多いですが、それは毎日子どもを殺しているようなものです。

キッズドアが素晴らしいのは、そんな子どもたちに寄り添い、子どもたちが社会の愛に触れるきっかけをつくり、存在を認める人間はいるんだと子どもたちに伝えている。それが、子どもたちの希望や未来やチャンスにつながっていくんだと思います。

社会貢献とは、突きつめると「働く=楽しい」に行き着く

CSRや社会貢献は、枠組みに当てはめたときに生まれる概念で、突きつめると、「そもそも働くという事は、どういうことなんだろう」ということに行き着きます。

多くの人にとって、「働く=労働」というイメージで、「働く=楽しい」とは到底思えてないんじゃないでしょうか。自分が好きなことに携われてないから、楽しいと思えない。では「自分の好きな事は何?」といわれても、そもそもわかってない人も少なくない。

どんなことでも楽しむことができる人とできない人がいます。自分が生きていて感じる喜びをまだまだ見つけられていない人が、もし僕を頼ってくれたことをきっかけに新しい人生の一歩を踏み出して「ありがとう」といってくれると、もう、それだけで震えがくるほどうれしいんです。

そんなシーンを小説や漫画や映画で見るたびに、僕は胸が熱くなってしまう。そういう要素に喜びを感じるのは僕だけではなく、多くの人が同じように感じると思うんです。

キッズドアで支援していらっしゃる人は、まさにそれを体現されている方たちだと感じていて、その活動に関わることで毎回僕はインスピレーションを受けています。人の人生を変えるくらいのことをキッズドアの皆さんはやっているのですから、それは負けていられないと思うわけですよ。

経営者として、毎日数字とにらめっこして社員のお尻を叩いてきた時期もあります。物欲を満たすために欲しいものを実際に持ってみたところ、「こんなことのために今まで頑張ってきたのか・・」と気づいてしまった。次に人に認めてもらいたいと思って頑張ってみた結果、スケールは小さくても「すごいですね!」と言われまくった。でも全然うれしくない・・・

というように欲求の階層を経験して、自分のために何かをやって形だけは満たされても、気持ちの上では全然満たされないことに気づくと、「他者のために貢献する」というフェーズに入ります

僕の場合はまだ自分のチームや家族というスケールですが、これが行動力のある人や優秀な人はどんどんスケールが拡がって、東京都、何万人もの社員、関東、日本、世界、地球、宇宙・・・となっていくんだと思います。

“共感”で結びつく新しい組織になれば社会は変わる

子どもの貧困は複合的な要因がありますが、その1つは拝金主義です。そもそも「お金がないと幸福ではない」という考え方がおかしいと思います。

テレビなどメディアではモノをたくさん持っているカッコいい人たちが出ているし、学校ではいい学校を受験しろ、成績重視、学歴重視で受験産業が幅をきかしている現在では、そう考えるのも仕方がない。

しかし時代は着実に変化の兆しを見せています。若い人たちは新しい組織を作り始め、企業のあり方が変わろうとしており、大企業に行く理由がなくなりつつあります。

本当に会社を拡大させるには、それをテクニカルにできるプロ経営者に頼んだ方が速いし、財務戦略は財務のプロにコミットしてもらったほうが、結果的に最大のパフォーマンスを出せる。このような新しいチームの考え方、プロジェクトの進め方が、もう既に存在してきているので、いずれ社会のあり方は変わります。パワーバランスが変わり、企業のあり方が変われば、企業に所属している意味がなくなります。

新しい組織論が実践されていくと、お金を持っている人より、より価値を生む人に富が集まるし、本人が価値を生まなくても、共感できる組織で一緒に働くだけで、何か幸せを得られる人が増えてくるようになる。そうなると、現在の「貧困=お金がない」という定義は変わってくると思います。

今、共感を生むことに注目が集まる世の中になっています。共感を得られない嫌なことを続ける必要はないし、各自が認められる存在でいられるコミュニティとしての組織に所属すればいい。

働く人たちは、報酬を得るのが目的というより、理念に共感して理念を実現したい人たちが集まってくる組織にいて世の中に貢献できれば、モチベーションがモノサシになる社会になるのではないかと思います。

これからの社会を作っていくために「楽しく仕事をする」

これからの社会を作っていくために経営者として重要なのは、「働く仲間をどれだけ尊重しているか」ということに行き着くと思います。

そう言っても自分はまだまだできていませんが、とにかく「楽しく仕事をする」ことは心がけています。「とにかく、楽しく!」何でもいいんです。例えば、ハグするでもいいし、ジャンケンするでもいいし。

ただし、“楽しい”を共有するのはそう簡単ではない。
企業の理念をしっかり作り込むことが重要で、弊社も実は最近、理念が決まったばかりです。

【HBGCの理念】

当たり前を疑う力。
当たり前を磨く力を持ったチームで、いつでも楽しい場を設計し、
日本や世界の人々に活力を与えるパワースポットとなる。

この理念を社員に伝えるだけではダメです。
パワースポットとは特別な場所。パワースポットを作り続けている人間であり、いつも“楽しい”を作っている人であるというメッセージを世界に発信した覚悟として、日々当たり前を疑っていますか? お互いそれを磨き上げていますか? “楽しい”を設計するために日々どんなことをしていますか?ということを常に社員に問いかけていかないといけないんです。

この問いかけに自信をもって応えられる人を社員として選んでいく必要があります。「採用」は重要です。

ここでいう「採用」と言うのは、良い人、悪い人をふるいにかけるのではなく、この理念に共感した人を選び、そうじゃない人はここにいることで結果的にその人の有限な時間を無駄にしてしまうという考え方です。人によってなりたい姿が全然違うので、理念を元にきちんとふるいにかけていくことが、結果的に働く仲間を尊重することの第一歩になります。

理念に共感した人が集まれば、いずれは飲食だけではなく他の事業に広がっていく可能性もあると考えています。

今、考えているのは、店舗は夜しか営業していないので、使っていない時間をどう使うか。子どもたちに「食」を体験する場として提供することもできるかな、と考えています。

子どもたちが自分たちで作ったものを、自分たちの手で誰かに渡して、「おいしい!」と言われたら、きっとその嬉しさや楽しさは貴重な体験になるはず。

それって飲食業の原点なんです。そういう様子を近くで見ている僕たちは、刺激を受けることが必ずある。“楽しい”で人と人が関わることは、新しいパワーや可能性を生み出していくと思います。

やきとん木々家(株式会社HBGC)

住所:東京都豊島区西池袋3-30-3 西池本田ビル8F
電話:03-6912-8005
公式HP:なし| やきとん 木々家 池袋西口本店(食べログ)

 

(2018.10.25  interviewed by Mika Okamoto)